概要 OVERVIEW
ベクター・プライム社(Vector Prime Construction)は、宇宙航路・宙域インフラの建設を専業とする星系最大手の建築企業。ワープドライブ航路という「星間の幹線道路」の工事を一手に担い、航路標識、中継ステーション、宇宙港、軌道ドックまで、ライラットの「動脈」に関わるあらゆる構造物を手がけてきた。
星系に9本存在するワープドライブ航路は、同社がスペース・ダイナミクス社と共同で建設したものである。SD社が航路の「理論と駆動」を、ベクター・プライムが「土木と構造」を担ったこの大事業は、ライラット史上最大の建設プロジェクトとして記録されている。事業のために両社が設立した合同組織についてはB・S航路事業開発の項に詳しい。
沿革 HISTORY
創業は第1次ライラットウォーズよりも古い。前身は入植時代の航路測量ギルド「ベクター組」であり、危険な未測量宙域に標識ブイを打ち込む命知らずの集団だった。「道は戦争より古く、戦争より長生きする」という社訓は、この時代の気風をそのまま伝えている。
共和国成立後、戦後復興の目玉として星間航路網の整備が国策となると、測量から施工まで担える同社が事業主体に選ばれた。全9航路・総延長にして光年単位に及ぶ大工事は三世代・約60年をかけて完成し、竣工式で当時の社長が述べた「本日、ライラットは初めてひとつの星系になった」という言葉は、歴史教科書の定番となっている。
主要事業 MAJOR WORKS
代表作は言うまでもなくワープドライブ航路網である。全ての航路が交差するセクターβの大型中継ハブ「クロスロード・ステーション」、トリンキュロー回廊の航行支援標識網、AREA3建設への構造協力など、星系の要所には必ず同社の銘板が埋まっている。
戦時下の現在は、破壊された航路標識の復旧と、軍民共用港の補強が業務の中心となっている。同社の作業船団は両軍から「撃ってはならない船」として暗黙裡に扱われており、砲火の止んだ戦域に最初に現れるのは、いつも救難艇と、ベクター・プライムの工事船だと言われる。
組織と気風 ORGANIZATION
華やかなSD社と対照的に、ベクター・プライムは「地味で頑固な職人の会社」で通っている。社員の中核は宙間建設士と呼ばれる技能職で、無重力下での長期作業に耐えるゼートイドやバステトイドの比率が高い。現場を経ずに役員になった者は社史上一人もいない。
政治的には徹底した中立を貫く。第2次ライラットウォーズでも同社は両陣営との保守契約を維持しており、批判に対する広報の回答は一貫している──「道を直す者が、道の使い途を選ぶことはできません」。
記録余話 ARCHIVES
航路建設時代の殉職者は三世代で数千名に及ぶ。同社は全ての航路標識に殉職者の名を一名ずつ刻んでおり、ワープ航行中に標識が瞬いて見えるのは「名前たちが挨拶している」のだと、船乗りの子供たちは教わる。
社には一枚だけ、着工されなかった航路の設計図が保管されているという。行き先はドグマ・セントラル。百年前に「需要なし」として凍結されたこの図面の閲覧申請が、コンタクト信号の発見以来、なぜか増え続けている。