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[ CIS-HQ / CORPORATION — Ys・SIM社 ]
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YS-SIM INDUSTRIES

Ys・SIM社(イス・シム) ── 星系で最初にスターファイターを量産し「空の帝王」と呼ばれた老舗航宙機メーカー。Gディフューザー以前の空を支えた「Ys管制システム」の開発元にして、スペース・ダイナミクス社の最も古いライバル。

概要 OVERVIEW

Ys・SIM社(Ys-SIM Industries、読みは「イス・シム」)は、コーネリアのトロイラス州州都に本社を置く航宙機・航行管制の老舗企業。空軍の時代の終わりを最初に予見し、星系で初めて宇宙戦闘機(スターファイター)の量産に踏み切ったパイオニアである。最盛期には航宙機の市場をほぼ独占し、機体から免許制度まで星系の空の全てを同社の規格が覆っていた。当時の通称「空の帝王」は誇張ではなく、ただの事実の描写だったと評される。

現在の同社は往時の面影が信じられないほど小さい。Gディフューザーシステムの登場で主力市場を失い、業界順位はトップからランキング圏外まで一直線に転げ落ちた。それでも同社は潰れていない。旧世代の航行体系「Ys管制システム」が農業機械と高級車両の分野で今も現役であり、難しい免許とともにこの古い空を愛する者たちが、確かな需要として同社を支え続けているためである。

沿革 HISTORY — 空の帝王

創業地は、惑星コーネリアで最初の巨大国家を育てた最古の州トロイラスである。今日のコーネリアシティに受け継がれるインフラの数々を生んだこの土地で、同社は大気圏内の航空戦闘機メーカーとして名を揚げた。転機は第1次ライラットウォーズの時代に訪れる。経営陣は制空権の奪い合いが惑星の空から軌道の外へ移りつつあることを読み取り、「空軍の時代は終わる。次の戦場は宇宙である」と断じて、全ての開発資源をスターファイターへ振り向けた。この転換に追随できた同業他社は存在しなかった。独占を禁じる法もまだ存在しなかった時代である。市場は文字どおり総なめとなり、各国の宇宙軍はYs・SIMの機体でYs・SIMの管制網を飛び、同社の免許で操縦士を育てた。

この黄金期を象徴するのが、旧コーディリア王国の騎士団「ジェイド・ナイト」へ納入された宇宙戦闘機の系譜である。単機のエース運用を磨き抜いた騎士団の武勲とともに翡翠色の機体は星系中に知られ、同社の看板であり続けた。共和国成立後も体制は揺るがなかった。戦争の時代が終わっても人と物は空を渡り続け、その空はすべてYs・SIMの空だったためである。玉座は二百年のあいだ、一度も脅かされることがなかった。

Ys管制システム YS CONTROL SYSTEM

同社の栄光と限界の両方を体現するのが、独自の航行体系「Ys管制システム」である。離着陸は艦体に積載した6基のプラズマバーニアで制御する。垂直移動を初めて実用化した画期的な機構だったが、6基の推力を手動で釣り合わせ続ける操縦は極めて難しく、練度の低い操縦士には離陸すら許さなかった。座標の感知はソナー式で、宙域に漂うブラグザライトの位置を音響測位のように拾って自機の位置を割り出す。ただし光の粒はごく緩やかに流れ続けるため、即席の基準にしかならない。ソナーは常時動かし続ける必要があり、さらに宙域へ乗り入れる際には、管制塔からその日の粒の分布を写した「今日の座標地図」を受信しなければシステムは機能しなかった。

つまりこの体系は、各宙域の管制塔と測量船団という巨大なインフラの上に成り立っていた。その全てを自社で敷設・運営していたことこそが同社の真の強みであり、機体を売る会社である以上に「空の道路公団」だったと言ってよい。反面、欠陥も抱えていた。ワープ航行中に近傍の強い重力へ機体が引かれる致命的な癖である。基準が漂う粒と紙の地図である以上、重力井戸の縁では誤差がそのまま命取りになった。加えて免許の取得難易度は星系随一で、宇宙航行は選ばれた者の職能であり続けた。敷居の高さは帝王の権威であり、同時に時代へ足を掬われる急所でもあった。

凋落 DOWNFALL — 二十年前の交代劇

雲行きが変わったのは約20年前、Gディフューザーシステムの完成と同時に台頭したスペース・ダイナミクス社の出現である。反重力による離着陸は6基のバーニアより滑らかで、音も遥かに少ない。座標はライラット・プライムの磁力線から即時に算出され、管制塔の地図をそもそも必要としない。そして何より、ワープ航行の危険度が格段に下がった。地上で運送業を営んでいた者たちがそのまま宇宙へ参入できるようになったこの一点が決定的だった。Ys免許という高い敷居の上に築かれた帝国の足元から、敷居そのものが消えたのである。

Ys・SIM社は当初、新参の機構を素人の玩具と見て相手にしなかった。この慢心がとどめとなった。業績は瞬く間に崩れ、業界シェアの首位に二百年座り続けた老舗は、数年でランキングの圏外まで滑り落ちた。この凋落の速さと呆気なさを語るとき、星系の経済紙は決まって同じ二十年前に頂点から退場したKENAMIを引き合いに出す。そして皮肉はもう一つある。玉座を奪ったスペース・ダイナミクス社の前身は、旧コーディリア王国の時代から艦艇修理を請け負ってきた二人だけの町工場である。その作業台に並んでいた機材の少なくない数が、ほかならぬYs・SIM製だった。帝王は、自社の機体を長年直し続けた末端の工房に空を明け渡したことになる。

現在 PRESENT — 帝王の余生

本社は今もトロイラス州都にあり、経営は続いている。Gディフューザーが標準となった今日でも運転免許には「Ys管制区分」が残されており、根強い愛好者が需要を守り続けているためである。Ys管制システムはGディフューザーと異なり故障が少なく、構造の隅々まで手が届く堅実な機構として知られる。難しい免許を取り、一度操縦を身体に叩き込んだ者は事故率が下がるとまでいわれている。農業用トラクターは今なおYs管制が主流であり、名だたる高級車両もあえてこのシステムを積み続けている。6基のバーニアを自らの腕で釣り合わせることを、選ばれた嗜みとして愛する者たちの市場である。

本社の格納庫には、ジェイド・ナイトに納めた翡翠色の一機が今も飛べる状態で保管されている。年に一度の創業祭では、社の最古参が6基のバーニアに火を入れて州都の空をひと回りする。空の帝王は玉座を降りた。それでも操縦桿だけは、二百年前と同じ手応えのまま今も握られ続けている。