[ FIELD RECORD 01 / FORTUNA SURVEY LOG — PART 1 ]
SURVEY LOG: FORTUNA — I
フォックス・マクラウドのフォルトナ調査記録 1 ── 第2次ライラットウォーズ下、単独で惑星フォルトナに降り立った一人の傭兵の行動記録。本記録は帰還後の本人の報告と母艦グレートフォックスの通信記録、および現地部族の証言を突き合わせて再構成されたものである。文中の会話は当事者の記憶によるため、正確性より臨場感が優先されている点に留意されたい。
序 ─ 任務の背景 MISSION CONTEXT
アンドリュー・オイッコニーの私設軍隊がフォルトナへ駐屯しているとの情報を受け、スターフォックスはセクターλで追撃戦を展開した。フォックス・マクラウドは敵旗艦の陽動を追って単機で大気圏へ突入。同時刻、宙域ではオイッコニー軍の兵士が誤ってスペースオベリスクの一体を破壊し、凶暴化した宇宙生物の大混乱によって共和国援軍によるフォックスの救助は事実上不可能となった(経緯は兵器記録WPN-24に詳しい)。
通信途絶までの僅かな間に、CDF総司令Z・Z・ペパーはこの遭難を「千載一遇の好機」へと読み替えた。オイッコニーの私設軍隊が潜むエリアを暴くこと。そして滅多に立ち入ることの許されないこの星の現地調査を行うことである。とりわけ後者にはペパーの強い意向が働いていたと伝えられる。フォルトナの部族社会はCDFの前哨基地を黙認してくれている数少ない「隣人」でありながら、その現況を知る手段が共和国にはほとんど存在しなかったからである。かくして遭難は正式なミッションへと昇格し、フォックス・マクラウドのフォルトナ調査記録が始まることになる。
第1章 不時着 ─ CRASH LANDING
フォックスはオイッコニー追跡のため惑星フォルトナの大気圏に突入したが、その際に原因不明のエネルギー漏洩が発生しG・ディフューザーが機能を停止した。アーウィンは半ば墜落に近い形で降下し、予定降下地点から緯度にして30度も離れたエリア、ソンテイル盆地に着陸することになる。
不幸中の幸いというべきか、そこは平和を望む部族ソンテイル族が穏やかに暮らす土地だった。もっともフォックスがそれを「幸運」と理解できるようになるのは、もう少し後の話である。この時点の彼にとって目の前の現実はただ一つ。燃料はほぼ空、機体は飛べず、通信はかろうじて母艦に繋がるのみ。そして周囲を取り囲む巨大な恐竜族の言葉が一言も分からないのである。
第2章 言葉の壁 ─ LANGUAGE BARRIER
フォルトナに暮らす恐竜族(通称: サウリアン)の言語は、ライラット星系のあらゆる言語体系とも異なる完全な独立言語である。息を吸いながら発音する母音が存在するなど哺乳類系人種の喉では発音そのものが難しい音を多く含み、当初はソンテイル族との意思の疎通が全く成り立たなかった。かろうじて繋がったスリッピー・トードとの通信を頼りに、現地で使える最低限の単語を覚えることがフォックスの最初のミッションとなった。
さらに悪いことに、サウリアンには口にすれば交渉が即座に決裂する部族ごとの禁句、いわば「逆鱗」に相当する言葉が存在する。士官学校の授業でその講義があったことを思い出したフォックスは、自分の置かれた状況が爆弾解除並みの難易度であることを自覚し、当該の授業を居眠りで潰したことを大いに後悔したという。その点でも逆鱗がほぼ存在しない心優しいソンテイル族の地に降りたことは幸運だった。四苦八苦しながら意思疎通を図り、幾度も間違いを指摘されながら言語の断片を習得したフォックスは、集めた情報をもとに簡易翻訳機の作成をスリッピーに依頼している。
第3章 亡命の女王 ─ THE EXILED QUEEN
意思の疎通が可能になると、フォックスはフォルトナで異変が起きていることをすぐに察知した。オイッコニーの私設軍隊がトアルシアン大渓谷に集結し、軍備の再編成と「怪しい実験」を行っているというのである。すぐに現地へ急行しようにもアーウィンは飛べない。せめて大渓谷までの地形を聞き出そうとソンテイル族の長老を訪ねたフォックスは、そこでさらなる情報を耳にすることになる。
サウリアンを統治する2大部族の一つアソーカ族がシャープクロウ族の軍勢に敗退した。そしてその女王をソンテイル族が匿っているというのである。謁見したアソーカの女王は聡明で、星系共通語をある程度話すことができた。女王の語る状況は深刻だった。アソーカ族はオイッコニー軍から武器の供与を受けたシャープクロウ族に敗れて散り散りとなり、王は人質に取られた。命からがら脱出した女王とはぐれた王子は、シャープクロウの手でスノーマウンテンの牢獄へ拉致されたという。「迫りつつある」とだけ報告されていたシャープクロウ族の侵攻がすでに統治部族の一角を打ち倒すところまで進んでいたという事実は、この星の情報がいかに外へ届いていないかを物語っていた。
第4章 女王の策 ─ THE QUEEN'S GAMBIT
トアルシアン大渓谷は非常に険しい地形であり、陸路で渓谷の奥にあるオイッコニーの前哨基地へ向かうのは無謀に過ぎる。そこで女王は一つの奇襲作戦を提案した。アソーカ王族と旧知の仲である「ワープ魔人」に頼んで大渓谷の先のスノーマウンテンへ跳び、対シャープクロウのためアソーカと同盟を結ぶスノーホーン族の族長に助力を乞うというものである。
スノーホーン族ならば大渓谷の抜け道を熟知しており、渓谷の反対側の山間部から奇襲攻撃を仕掛けることができる。そして何より、スノーマウンテンに囚われた王子の救出と作戦の遂行を同時に果たせるのである。亡国の淵にあってなお二手三手先を読む女王の眼力に、フォックスは「うちの参謀より頼りになる」と素直な感想を残している。
第5章 ワープ魔人 ─ THE WARP DJINN
だが、ワープ魔人との交渉は問題が山積していた。まず岩石でできた巨人と女王から伝え聞いていたワープ魔人は、なんと物理法則を無視して鼻提灯を出して寝ていた。硬い材質の身体にもかかわらず彼が人間のように頬杖をついて寝られる理由は今も不明である。そして寝ていた魔人は起きるなり不機嫌そうにこう言い放った。「一見さんお断りだよ。俺様は昼寝で忙しいんだからな」
ソンテイル族の長老によれば、魔人はフォルトナの地層から発掘される謎の植物化石「魔人飴」を口にしないと眠気に負けて寝てしまうのだという。星系の市場で「製法不明の琥珀色の菓子」として法外な値が付くあの珍品の正体がそもそも誰にも作れない発掘品だったという事実は、本記録が持ち帰った小さくない発見の一つである。そして肝心の魔人飴の相場は5,000スカラベ。価格を聞いてもきょとんとするだけのフォックスに、長老はこれがサウリアンの標準時2か月分の食料に相当する大金であることを教えた。普段から財布など携帯していない上に、通貨が生きた昆虫である生活など生まれてから一度も経験がない。ライラット星系の常識が何一つ通じない世界でフォックスはただ右往左往した。
第6章 青い杖 ─ THE BLUE STAFF
アソーカの女王によれば、ソンテイルの里は野生のスカラベが多く生息する「金の採掘地」も兼ねた土地だという。赤紫色をした足の速いスカラベは一匹で100スカラベとして取引され、この地にはそうしたレアスカラベが他の土地より多く棲むらしい。岩の下に隠れるスカラベを捕まえるべく手頃な木の棒を探していたフォックスは、ふと茂みの中に光る青い輝きに目を奪われた。
正体不明の「棒」に触れようとした瞬間、どこからともなく聞き覚えのない囁き声が脳内に直接響き渡った。声の主は分からない。ただその声はこの棒が「クリスタル・スタッフ」という特殊な武器であること、そしてサウリアすなわちフォルトナに危機が迫っていることを告げた。フォックスはこの奇妙な杖を任務の間携帯しておくことに決めている。この判断が後にどれほどの意味を持つことになるかを、この時の彼はまだ知らない。
第7章 斥候の襲撃 ─ SKIRMISH AT THE VILLAGE
クリスタル・スタッフを担いだ矢先、集落に煙が上がった。武装したシャープクロウ族の斥候がソンテイルの地を襲撃したのである。兵の数こそ少ないが、彼らが手にするのはレーザーガンやスタン機能付きの警棒。フォルトナの文明レベルを明らかに超えた装備であり、狙いはアソーカの女王の捜索とみられた。
ソンテイル族の族長が斥候に襲われかけた時、フォックスは応戦に踏み切った。正義感か、あるいはクリスタル・スタッフの導きか。理由は本人にも分からなかったというが結果は明白だった。スタッフの放つ青い光は警棒の電流を防ぎ、あまつさえ斥候たちの遠距離武器を次々と故障させたのである。文明の利器を失った斥候はただの臆病なヴェロキラプトルだった。戦いはフォックスの圧倒的優位で終わった。
第8章 商人ジャブンガ ─ THE MERCHANT JABUNGA
斥候を撃退すると彼らが置き去りにした収奪品の山から物音がした。確認してみると、手足を縛られた商人がコンテナの中に押し込められていたのである。救出されるなり流暢な星系共通語で喋り始めた怪しい商人は自らを「ジャブンガ」と名乗り、命の恩人への礼として商品の1割引きを申し出た。そしてその商品の中には目当ての魔人飴が含まれていたのである。
思わずフォックスは聞き返した。「こういうときって、なにか一つ無料でくれるとか、そういう系の話じゃないのか?」だがジャブンガは1割引き以上は決して値引きしなかった。族長や女王が口添えしても商売は商売とスタンスを崩さない。命よりも帳簿が固い商人だった。
交渉は長引いた。太陽が沈む頃、根負けしたのか興が乗ったのか、ジャブンガは一つの提案をフォックスに持ち掛けた。「おまえさんの首のモフ毛に見え隠れする、エンブレムの入ったペンダント……それを賭けてギャンブルをしようじゃないか。ワタシはこの魔人飴を賭けよう。悪くない話だろ?」指名されたのはフォックスが肌身離さず持ち歩く、家族写真を封入したペンダントだった。自分の人生の足跡を証明する数少ない形見である。少し考えたのちフォックスは静かに答えた。
「さすがお目が高い。こいつは俺の人生そのものなんでね……この勝負、乗った!」
第9章 スカラベレース ─ THE SCARAB RACE
用意された賭けは「スカラベレース」だった。互いにとっておきのスカラベをレース用に掘られた溝に置き、先にゴールへたどり着かせた者が勝者となる。途中でスカラベが逃げ出したらその場でゲームセットである。「勝負はフェアに」と嘯くジャブンガは素早く動き回る赤〜紫のレアスカラベを20匹ほど並べ、好きなものを選べと申し出た。その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
フォックスはコースに既に細工が施されていることに気づいていた。ジャブンガはわざと足の速いスカラベばかりを提示しながら、自分は青緑色の動きのゆっくりしたタイプを選んでいる。カーブの険しい区間で速いスカラベは高確率で脱線し、そのまま羽を開いて逃げてしまう。かといって遅いスカラベを選べば素直に負けるだけである。相手の罠は見えている。だが、それを見越した上で最初から仕込まれた仕掛け。ただ者ではないと内心舌を巻きつつ、フォックスは一つの賭けに出ることにした。
レースが始まり、2匹のスカラベが勢いよく砂をかき分けて走り出す。案の定、フォックスの選んだ快速のスカラベは3回目のヘアピンカーブで曲がり切れずに脱線し、羽を開いて飛び始めてしまった。勝利を確信したジャブンガがにやにやと笑う。その時フォックスは咄嗟にクリスタル・スタッフを掲げ、青い光を放った。なんと飛んだスカラベはコース上に放たれた光の玉を追いかけてコースへ舞い戻り、そのまま持ち前の快速で一気にゴールを駆け抜けたのだった。
呆気に取られたジャブンガは我に返るなりイカサマだと癇癪を起こした。フォックスは得意げに返した。「だれもスカラベが飛んじゃダメとは、一言も言ってないぜ……!」
なおも講釈を垂れて食い下がるジャブンガだったが、頭上を大きな影が通り過ぎると凍り付いた。影は商品の魔人飴をひょいとつまみ上げ、光にかざして検分すると口の中へ放り込んだ。一部始終を眺めていたワープ魔人である。「久しぶりに眠気がふっとぶ良い試合を見せてもらったぞ。このワープ魔人様を満足させるとは、やるじゃねぇか狐のアニマリア」「ジャブンガ、あんたも良いとこまで策を練ってたみたいだが、後一歩足りんかったな。今回は俺様に免じて許してやれよ」。魔人がその巨大な胴体を持ち上げると、身体の下から色とりどりの大量のスカラベが湧き出して空を飛び回り始めた。ジャブンガはそれを捕まえようと、フォックスそっちのけでスカラベの群れを追いかけ茂みの中へ消えていった。
第10章 転移 ─ TRANSIT
アソーカの女王から事情を聞いたワープ魔人はフォックスのワープを快諾した。スノーマウンテンがサウリアの中でも特に過酷な土地であることを一通り語って聞かせた後、魔人はフォックスをその巨大な掌に乗せた。
この時のワープはフォックスにとって生涯忘れられないトラウマの一つになったらしい。精神を統一した状態で掌に乗り、魔人のもう片方の手に握り潰される。すると周囲が歪んだ空間に飛ばされ、意識も時間も何もかもが溶けるような形容しがたい感覚に襲われるのだという。このまま行き先にたどり着けなかったら──湧き上がる恐怖が心を支配しかけた瞬間、ワープ魔人の一喝がそれを吹き飛ばした。「ワープ中は雑念を取り払え。黙々と昆虫の列を数えるとき、そんな心の静寂が必要だ!」「余計なことを考えると、この星の意識に喰われるぞ。それを忘れるな!」
気が付くとフォックスは、信じがたいことに物理法則を無視してスノーマウンテンへ転移していた。完全に都市伝説と思われていた神秘のワープを身をもって体験した瞬間である。熱帯のソンテイル盆地から一気に高山帯へ跳んだのだからさぞ寒さが応えるだろうと身構えたフォックスの背に、魔人の声が届いた。「おまえさん、忘れもんだぞ!」ふと自分の身体を見下ろすとパンツ一丁になっていた。ワープ中に余計なことを考えたせいで着衣と装備の転移がずれて同期されたらしい。少し遅れて洋服と装備品一式が彼の隣へまとめてワープしてきたのであった。
第11章 白の山 ─ THE WHITE MOUNTAIN
身支度を整え直し、雪のスノーマウンテンを歩き始めたフォックスは程なくしてシャープクロウ族の砦を発見した。アソーカの女王から伝え聞いた、王子が囚われているという牢獄はここだと直感できる悪趣味な建物だった。
時を同じくして、スリッピーからの通信が入った。わずか半日でアソーカ・ソンテイル・スノーホーンの3言語に対応する翻訳装置を作り上げたというのである。アソーカ語は女王が共通語とアソーカの言葉を交互に喋る話し方が解析の大きな助けになった。ソンテイル語はアソーカ語との共通部分が多く、ついでに翻訳できるようになった。そしてスノーホーン語は既知の人種「ガネシオソイド」の方言との共通点から精度60%での翻訳に成功したという。やはりスリッピーは天才である。
第12章 砦の攻防 ─ THE FORTRESS
砦に潜入したフォックスが最初に目にしたのは、労働力として使役されるスノーホーン族の捕虜たちだった。枷を付けられ雪の重労働を課される囚人たち。だが助けようと近づいたフォックスに返ってきたのは感謝ではなく敵意だった。「アニマリアの施しは受けん」。誇り高い戦士の一族は鎖に繋がれてなお部外者を邪険に扱ったのである。
問答の途中で武装した見張りに発見され、フォックスはやむなく応戦した。クリスタル・スタッフの一閃がシャープクロウの見張りを打ち倒し、返す一撃が捕虜たちの枷を砕く。解放されたスノーホーンの若い戦士2人はそれでも礼を言わなかった。代わりに低い声でこう言った。「借りができた」。後に知ることになるが、この一族からアニマリアが引き出せる言葉としてこれはかなり上等な部類だったらしい。
フォックスは戦士2人に引き続き捕虜のふりを続けるよう頼んだ。何も知らない見張りたちが油断しきったところを内側から制圧し、外からフォックスが挟撃する。単純にして確実な策は図に当たり、砦は瞬く間に陥落した。どれほど堅牢な砦も、閂が内側から開くならただの檻である。
第13章 雪原の追跡 ─ CHASE ON THE SNOWFIELD
陥落の混乱のさなか、異変を悟った一部のシャープクロウが動いた。囚われの王子を檻ごとスノーモービルに繋ぎ、雪原へ逃走したのである。フォックスは残る捕虜の解放を戦士2人に任せ、鹵獲した一台で単身追跡に移った。
吹雪の雪原を二筋の雪煙が疾走する。追手を振り切ろうと無茶な針路を取ったシャープクロウの車体が大きく跳ね、牽引していた檻がワイヤーごと外れて宙を舞った。檻はそのままクレバスの闇へ落下。急停止の間に合わなかったフォックスも体勢を崩し、もろとも底へ転落してしまう。
第14章 クレバスの王子 ─ THE PRINCE IN THE CREVASSE
クレバスの底、雪に埋もれたフォックスが目を開けると傍らの檻は既に壊れて空だった。そして頭上から聞こえよがしの生意気な声が降ってきた。「ヘッタクソな着地だったな。パンツが破れたんじゃないか ハッハッハー!」。とっくに自力で脱出していたアソーカ族の王子、トリッキーである。フォックスは雪を払いながら思った。この星に来てからパンツの心配をするのはこれで二度目である。
道中の王子は減らず口の連続だった。だがフォックスは喉元まで出かかった「クソガキ」の一言を飲み込んでいる。父は人質、母は亡命、自分は檻で運ばれる身。それでも軽口を叩き続けるのは寂しさと恐怖をこらえるための精一杯の虚勢なのだと気づいたからである。気づいてしまえば不思議と、真面目に協力してやろうという気力が湧いてきたとフォックスは記録に残している。
脱出路を見つけたのは王子だった。好物のキノコの匂いがするというのである。半信半疑で匂いの先を辿ると、狭い氷の抜け道の向こうに視界が開けた。出た先はスノーマウンテン中腹の開けた雪原、遠くにCDF前哨基地を望むヒューロニアン氷原である。地図にない道を鼻で見つける王子にフォックスは素直に感心した。当の王子は「腹が減っただけだ」と答えたという。
第15章 氷原の集落 ─ THE VILLAGE ON THE ICE
氷原の端にはスノーホーン族の集落があるという。アソーカの女王から託された同盟の伝令を伝えるべく二人は集落の門をくぐった。だが応対した族長は取り付く島もなかった。フォックスを「部外者」と、トリッキーを「腰抜け」と罵り、門の外を指したのである。誇り高い戦士の一族にとって、部外者とつるんで現れた同盟相手の王子など認められるものではなかったのかもしれない。
すごすごと追い出されかけたちょうどその時である。砦から解放された捕虜の一団が集落へ帰り着いた。先頭を歩く2人の若い戦士は、フォックスと共に砦を落としたあの2人。そして彼らこそ族長の長男と次男だったのである。息子たちと、助け出された大勢のスノーホーンたちの説得を前に、族長はフォックスとトリッキーの扱いを改めざるを得なくなった。仲間のために命を懸けて闘った者を無下に扱うことはできなかったのである。
それでも族長は最後まで「信用する」とは言わなかった。ただ一言、「借りは返す」と言った。この一族の物差しでそれが最上級に近い言葉であることを、フォックスはもう知っていた。
第16章 大渓谷 ─ THE GREAT RAVINE
かくしてスノーホーン族の助けを借りた二人は、スノーマウンテンとジュラの大森林を分かつトアルシアン大渓谷の入り口へたどり着いた。案内はここまでである。雪を離れることを良しとしないスノーホーンは渓谷の縁で足を止めた。
渓谷を進むとほどなく絶壁に行く手を阻まれた。よじ登る取っ掛かりすらない垂直の壁である。立ち往生する二人に、別れ際のスノーホーンたちの助言が思い出された。渓谷に詳しいハイト族に会えば先へ進める。あの首の長い一族は渓谷の壁のどこに道が隠れているかを知っている──というのである。
第17章 囚われの巨人 ─ THE CAPTIVE GIANTS
だが、たどり着いたハイト族の集落に広がっていたのはプレハブの立ち並ぶ異様な光景だった。恐竜改造施設である。オイッコニーはかつて全滅に終わったこの地の施設を再建するべく物資を大量に送り込んでいたのである。ハイト族は足に枷をはめられ、武装したシャープクロウ族が見張りとして巡回していた。シャープクロウの武器の近代化がオイッコニーの供与によるものであることは、この光景一つで確定した。
フォックスはクリスタル・スタッフの閃光と打撃で見張りの兵を沈め、トリッキーはその角と怪力でハイト族の枷の鍵を次々と破壊していった。50mの巨人たちがゆっくりと立ち上がり首を天へ伸ばす様は、さながら森が生き返るかのようだったという。
第18章 剣牙の将軍 ─ GENERAL SCALES
解放の歓声が鳴り止まぬうちに、施設の奥からゆっくりと拍手の音が響いた。現れたのはシャープクロウ族の現族長、スケール将軍その人である。フォックスはクリスタル・スタッフを構え、正面から白兵戦を挑んだ。だが将軍の刀捌きは尋常ではなかった。数合と持たず押し負け、スタッフは手元から弾き飛ばされた。
首元に刃が突き付けられる。絶体絶命の瞬間、横合いからトリッキーが決死の突撃を敢行した。小さな体当たりが将軍の体勢を崩す。その一瞬の隙にフォックスは手元のブラスターで将軍の剣と鎧を撃ち砕いた。得物を失い、戦いは互角に戻ったかに見えた。
だが将軍の怒りが頂点に達した時、異変が起きた。その両目が、青く輝いたのである。クリスタル・スタッフと同じ力を拳に宿した将軍が地面を殴りつけると、飛び退いた足元に大穴が空いた。猛獣のように襲い掛かる将軍はフォックスのブラスターを顎で噛み砕いて破壊してしまう。万事休す──そのフォックスの手元へトリッキーが拾い集めたクリスタル・スタッフを投げ渡した。青い光と青い光。ようやく同等の力のぶつかり合いとなった。
それでも純粋な力比べでは将軍が上だった。押し込まれたフォックスはスタッフの青い光を目くらましに変えて放つと、駆け込んできたトリッキーの背中を踏み台に将軍の懐へ大跳躍。渾身の一撃が将軍の胸に深い傷を刻んだ。どちらか一人であれば確実に敗れていた。二人だったから勝てたのである。
深手を負った将軍は頭に上っていた血が引くと同時に青い光を抑え込み、施設に駐留させていたサルデスに搭乗して撤退した。去り際にフォックスとトリッキーを順に見据えたその眼は、何かを刻み込むような色をしていたという。
第19章 単身、敵地へ ─ INTO THE STRONGHOLD
スケール将軍は撤退の足でオイッコニー本隊と合流し、緊急事態を報告した。「改造計画の素体が逃げ出した」という警報が渓谷中に鳴り響き、サルデスに搭乗した兵士たちが巡回を開始する。巨大兵器のひしめく戦場を前にフォックスはトリッキーの身を案じた。そこで「解放したハイト族と捕虜たちの避難誘導」という重要任務を与える体で、王子を戦場から遠ざけたのである。トリッキーは胸を張って引き受けた。この任務の本当の意味に王子が気づくのはずっと後のことだったという。
単身で渓谷の奥へ進んだフォックスの眼下に、やがてオイッコニー基地の全容が現れた。想像を絶する数の兵器と兵士。その規模は基地というよりすでに一つの「街」だった。帝国の科学力とそれに与する人口の多さに、息を呑まざるを得ない。フォックスは巡回中のサルデス一機を音もなく鹵獲すると、旗艦の停泊地へ向けて操縦桿を握った。
第20章 鋼の谷 ─ STEEL RAVINE
鹵獲機の侵入に気づいたオイッコニーは帝国軍の新兵器サルデスⅢを多数けしかけた。だが、ここは宇宙ではない。トアルシアン大渓谷の滝と霧と断崖が数に勝る帝国軍の進撃を阻んだ。この星の自然に慣れ始めていたフォックスは滝裏に隠れ、岩陰に潜み、霧に紛れて追手を一機また一機と各個撃破していった。
報告を受けたオイッコニーはスケール将軍のサルデスへ追加のジェットパック兵装を与えると同時に、親衛隊の一部をフォックス討伐へ差し向けた。まず襲い掛かったのは黒塗りのサルデス3機。雑兵とは別物の統制された連携がフォックスを追い詰めたが、彼は渓谷の地形を最大限に使って翻弄し、ついに1機を損傷させる。連携の崩れた3機は深追いせず撤退していった。
第21章 一騎打ち ─ DUEL IN THE RAVINE
安堵する間もなく、頭上の霧を裂いて単機が降ってきた。ジェットパックを噴かせたスケール将軍のサルデス・カスタムである。渓谷の底、巨大兵器同士の一騎打ちが始まった。
だが白兵戦であれほどの強さを見せた将軍は、機体の操縦にはまるで慣れていなかった。生身であれば間合いの内へ踏み込まれていたはずの一瞬、フォックスは冷静に機体を滑り込ませ、サルデス・カスタムのバーニアの片方を撃ち抜いた。姿勢を維持できなくなった機体は錐揉みしながら谷底へ墜落する。
大怪我を負いながら機体から這い出した将軍は追撃を許さぬ眼光でフォックスの機体を睨み上げ、低い声で復讐を誓うと渓谷の霧の中へ消えた。この日をもってスケール将軍にとってフォックス・マクラウドは「侵略の障害」から「己の誇りを二度折った仇敵」へ変わったと、後の分析記録は結論している。──残るはオイッコニーだけである。フォックスは停泊する旗艦へまっすぐ進路を向けた。
第22章 鉄の巨人 ─ THE IRON GIANT
旗艦ブレイン・クラッシャーmk-Ⅳを捉えたフォックスを、地形を変えるほどの猛攻が迎えた。降り注ぐ砲火の中、一瞬の隙を突いてレーザータレットの全基破壊に成功する。だが直後、横合いからの砲撃がサルデスⅢを直撃。機体は大破し、フォックスは生身のまま地上へ引きずり出されてしまった。
丸腰同然の狐を見下ろしながら、オイッコニーはとっておきの秘策を取り出した。叔父から譲り受けたこの戦艦の真の姿を見せる時が来たのである。彼は高らかに宣言し、「変形ボタン」を押した。
「わーっはっはっは! 逃げろ逃げろ 哀れな狐めぇ!俺は今、暗闇から迫り速やかに死を運ぶ影だ! 終わらせてやるぞぉ フォックス!」
第23章 巨人の拳 ─ FISTS OF THE GIANT
轟音とともに旗艦が組み変わっていく。現れたのは超巨大な「頭と両手だけ」のロボットだった。艦体から分離した頭部と左右の拳が宙に浮かび、標的をただ殴りつける。それだけの単純極まる攻撃でありながら、その一撃は圧倒的な質量ゆえに小規模な地震を起こすほどの威力を持っていた。
振り下ろされた拳を、フォックスは指と指の間に滑り込んで凌いだ。だが息をつく間もなく次の拳が飛んでくる。クリスタル・スタッフの光を指に当てて機構の故障を狙ったものの、あまりに巨大なため全く効果がない。斥候の武器を沈黙させたあの青い光が、この質量の前では豆鉄砲にもならなかった。
やがて巨大な左手が、逃げ場ごとフォックスを地面へ押し潰しにかかった。今度こそ終わりを悟ったその時──迫る手のひらが、途中で止まった。受け止めていたのは退避したはずのトリッキー、そしてその両脇を固めるスノーホーンの戦士2人。氷の砦を共に落とした、あの族長の息子たちである。見上げたフォックスの視界に、さらに信じがたい光景が広がった。トリッキーはアソーカ族、クラウド族、そしてスノーホーン族の大軍勢を引き連れて駆けつけていたのである。「借りは返す」。あの言葉に、嘘はなかった。
第24章 部族の逆襲 ─ COUNTERATTACK OF THE TRIBES
反撃の口火を切ったのもスノーホーンの戦士たちだった。渾身の力を牙に込めた一撃が左手の駆動部、すなわち弱点を深々と突き刺し、巨人の左手は火花を散らして沈黙した。
すぐさま右手で応戦するオイッコニー。だがその拳はアソーカ族の戦士たちの怪力に真っ向から押し返された。さらにハイト族の巨躯を足掛かりに上空へ跳び上がった恐竜たちの連携が拳へ殺到し、右手もろとも地面に押し倒されて破壊された。個々の力では巨人に及ばずとも、部族の壁を越えて束ねられたサウリアンの力は帝国の兵器をも凌駕したのである。
両手を失った巨人はなおも頭突きで応戦した。その衝撃で足場が崩れ、フォックスとトリッキーが宙へ投げ出される。二人を空中で受け止めたのはクラウド族の青年だった。青年はそのまま砲火の間を縫って空中を突き進み、二人を頭部──旗艦の中枢へと送り込んだのである。
第25章 コックピット ─ SHOWDOWN
艦内では親衛隊が機銃掃射で待ち受けていた。だが鋼鉄より硬い皮膚を持つアソーカ族のトリッキーには全く効かない。弾丸を額で弾きながら突進する王子を盾に廊下を駆け抜け、フォックスはついにコックピットでオイッコニーと相対した。
「ぐぬぬぬぅ! カタリナとフィチナに続き 2度ならず3度までも! おまえを生涯のライバルと認めなきゃいけないじゃないか!」
激高しつつも勝手にライバル視してくるオイッコニーに、トリッキーはつい突っ込みを入れてしまった。「ライバルって言葉ってさ、互い認めた関係じゃないと、ただの負け惜しみになるんじゃない?」
この突っ込みでやけくそになったオイッコニーは護身用のサーベルを振り回し、やみくもに襲い掛かったが…──言うまでもなく、フォックスとトリッキーの敵ではなかった。
第26章 崩れゆく野望 ─ COLLAPSE
あっけなく捕縛されたオイッコニーはそのままCDF前哨基地へ連行され、御用となった。主を失い制御の途絶えた鉄の巨人は、ゆっくりとバランスを崩して倒れ込んでいく。
そして倒れ込んだ先は、よりにもよって基地の燃料自給のために用意されたメタン発生槽──つまりは肥溜めだった。頭から突っ込んだ皇帝の旧旗艦は発生していたメタンに引火し、ほどなくしてオイッコニーの旗艦と基地は連鎖爆発で跡形もなく消し飛んだ。「街」とまで呼ばれた一大拠点の最期としても、皇帝の旗艦の最期としても、あまりにもあんまりな幕切れである。帝国の公式記録がこの転倒の詳細を記していないのは恐らく故意であろう。
第27章 別れと約束 ─ FAREWELL
やがて、捕縛されていたアソーカ王と女王の保護が完了したという知らせが届いた。王家は再会を果たし、戦いは一つの区切りを迎えた。だがフォックスは、この星の水面下でなお渦巻く野望の気配を感じ取っていた。スケール将軍は健在であり、改造計画の全容は闇の中。そして杖の囁き声が告げた「サウリアの危機」は、まだ何一つ解決していない。フォックスは準備を整えるため、一旦コーネリアへ戻ることを決めた。
別れ際、フォックスはクリスタル・スタッフをトリッキーに手渡した。戻ってくるまで預かっていてほしい、というのである。この星で拾った杖はこの星に置いていくのが筋であり、何より預かり物があれば、必ずまた会うことになる。王子は何か言い返そうと口を開き、結局何も言わずに胸を張って頷いた。それが精一杯の強がりであることは最早言うまでもない。
第28章 帰還、そして ─ HOMECOMING
宇宙生物を鎮静化させたCDFの部隊が、数日遅れでヒューロニアン氷原の前哨基地に到着した。そこにはフォックスのアーウィンの回収を済ませ、翻訳機をさらにバージョンアップさせていたスリッピーの姿もあった。そして、ほかの隊員をかき分けて聞き覚えのある小言が耳に入る 「まったく墜落と聞いたときはどうなるかと思ったぞ! 皆に心配かけおって… 」。見慣れた面々にようやく、フォックスは肩の力を抜いたという。
一方、オイッコニーの身柄は長くは共和国に留まらなかった。コーネリアへの護送船が軌道へ上がって間もなく、ウルフェンの編隊が強襲。護衛部隊が振り切られる僅かな間に、オイッコニーはスターウルフの手で奪還され、そのまま帝国の中枢へ帰還したのである(顛末は兵器記録WPN-24を参照)。
そして同時刻。壊滅したはずのオイッコニー基地の跡から、正体不明の言語による通信が検出されている。話していたのは後にスケール将軍、そして巨大なサイボーグの竜だったと判明するが──後者の正体がドラコニア族の族長であると判明するのは、だいぶ後の話である。
結 ─ 記録の後に EPILOGUE
本記録はフォルトナ戦役における単独調査任務の行動記録である。フォックスは態勢を整えるため一旦コーネリアへ帰還したが、この星の調査はまだ終わっていない。再訪後の記録、すなわち部族との衝突や聖地での発見を含む後半は「フォルトナ調査記録2」として編纂が進められている。
ペパー総司令が本任務に託した狙い、すなわち「隣人たちの現況を知ること」について、本記録の成果は期待を大きく上回った。シャープクロウ族の侵攻が既に統治部族の一角を打ち倒すまで進行していたという事実、部族間の同盟関係の実態、そして3部族分の翻訳装置。これらは共和国のフォルトナ理解を数十年分前進させたと評価されており、惑星記録の「サウリアの部族たち」の項の現況記述の多くは本調査の成果に基づいている。