THE
SLEEPING
TIGER
500年の鎖国を続ける独立国家ガロウ連邦の頂点に立つ虎。独立星系連合の遺産で軍備を整え、開門の日を待っている。誰もこの虎を起こしたくない。
概要 ─ OVERVIEW
アンドルフには物語がある。あの虎にあるのは目的だけだ― CDF情報部 勢力分析会議の発言より
グリムクロウは、500年の鎖国を続ける独立国家ガロウ連邦の頂点に立つとされる人物である。フィチナの古老の証言と傍受通信の断片から同定された連邦軍の総帥であり、CDFは「提督」の呼称でこの人物を管理している。実質的に王族と同じ役割を果たす中央政権の頂点にあり、国民のすべてが屈強な兵士と言われる連邦の軍事体系はこの男の下に一元化されているとみられる。
悲劇の経緯を背負うアンドルフと異なり、その行動原理に同情の余地を見出した分析官はまだいない。数少ない傍受記録から浮かび上がるのは、征服を自明の目的として語り、そこに理由を必要としない古典的なまでの覇道の人物像である。
台頭 ─ RISE
この人物の名が外界の記録に現れるのは、IGA戦役の完了から3年後のことである。統治者を失っていたセティボスⅣの管理を連邦が突如申し出たとき、交渉窓口の通信に署名されていた呼称こそが「提督」であった。以来この決定が本人の主導によるものだったことは、複数の証言が一致して認めている。旧シコラクス要塞の瓦礫に眠る超兵器の情報がその狙いだったとするCDFの推測は、連邦の記事に詳しい。
転機はその数年後に訪れる。古老たちが口を揃えて語るところによれば、およそ18年前を境に連邦の空気は一変した。独立星系連合が残した兵器が次々と再生され、ドーム都市の工廠は昼夜を問わず稼働を始めた。500年のあいだ門を閉ざして眠っていた国は、この男の代で明確に「牙を研ぐ国」へ変わったのである。
軍事顧問 ─ THE ADVISOR
近年の急速な軍拡は、「軍事顧問」と呼ばれる正体不明の人物の存在抜きには説明できないとされる。この顧問が作り出す無人兵器群は連邦の主力になりつつあり、その設計思想は星系の既知のどの工廠の系譜とも一致しない。提督が顧問を重用していることは傍受通信の端々から明らかであり、二人が常に行動を共にしているという報告すらある。
顧問の正体は約30年前にエクストリーム・ゾディアックに討伐されたはずのアルペジオ三男ラタと照合されている。ラタは都市修繕ボットと融合したサイボーグの科学者として生存しており、十数年の潜伏を経てグリムクロウと合流した。以後18年ほどの歳月で、辺境の鎖国国家は無人兵器を柱とする現在の軍事国家へ作り替えられている。二人の関係は主従というより共犯に近い。邪心の質が一致しているのか妙に馬が合うらしく、連れ立って足つぼマッサージ店に現れるという潜入報告が複数残されている。情報部はこの記録の扱いにいまだ困っている。
戦略評価 ─ ASSESSMENT
連邦の国力は帝国や共和国に遠く及ばない。それでもこの国が「帝国に次ぐ星系の脅威」の候補に数えられるのは、IGAの遺産と無人兵器という危険な組み合わせを、国民皆兵の練度が下支えしているためである。CDFの分析では、提督はベノム帝国の出現によって大規模な攻勢の機を失い、現在はやむなく様子見に徹していると評価されている。裏を返せば、二大勢力の戦争が終わった日こそがこの虎の起きる日になりかねない。
この認識は帝国・通商連合・共和国の三者に共通しており、連邦の動向を巡っては奇妙な停戦と情報連携が今も続いている。星系の主要勢力すべてを同じ側に立たせた人物は、後にも先にもこの提督だけである。
記録余話 ─ ARCHIVES
傍受された国営放送で提督は常に「国父」と呼ばれる。ところが収録年代の異なる放送を並べると、その声紋は微妙に一致しない。影武者説と世襲説がCDF内で併存しているが、鎖国の壁の向こうを確かめた者はいない。「グリムクロウ」の名すら本名である保証はどこにもないのである。
フィチナの古老が語る昔話には、こんな一節があるという。門の内の虎は爪を研ぐ音を外に聞かせない。聞こえたときには、門はもう開いている──。