概要 OVERVIEW
ブリトニー・エンバイロメンタル社は、惑星コーネリアのヴァリス州に本拠を置く空調および農業ステーション開発のパイオニアメーカーである。現在星系で生産される野菜の半数を賄う宇宙野菜工場「アン・ブレラ」が主力製品であり、国家プロジェクトであったオベロン計画の技術供与および実施企業としても有名である。
社是は「水と空気はつくれる」。空調メーカーとして培った温度・湿度・気流の制御技術を「天候をつくる技術」へ読み替えたことがこの会社の全てであり、社史はこれを一行で「我々は畑に屋根を付けるのをやめ、屋根を畑にした」と要約している。
沿革 HISTORY
元はエアコンや空気清浄機を作る家電メーカーであり、どこにでもある規模の会社であった。転機は空調の際に排出される結露の水に着目し、逆転の発想で水分抽出機として転用した製品「VFX-水分凝結機」を開発したことである。空気から水を汲むこの機械はパペトゥーンやカタリナといった乾いた惑星の農家に爆発的に普及し、井戸も川もない土地に畑を成立させた。入植地の朝一番の仕事が「機械の水受けを見に行くこと」に変わったとき、ただの家電メーカーは星系の農業を支えるインフラ企業へ変わっていたのである。
水を作れるなら次は天候ごと作ればよい。水分凝結と空調制御を組み合わせた閉鎖環境農業の研究はここから始まり、同社は星系最大クラスの野菜工場開発メーカーへ進化していくことになる。共和国誕生以前から続くこの積み重ねこそが、後年オベロン計画の後継事業を一企業として任される際の、何よりの推薦状となった。
オベロン計画 THE OBERON PROJECT
宇宙に理想の楽園を建造するという共和国の国家プロジェクト・オベロン計画において、同社は環境制御系の技術供与と実施を担った。最初に建造された「オベロンⅠ」の空調と水循環はブリトニー製であり、計画自体が「誰も住み続けられなかった」の一文で締めくくられた後も、ステーションの農業区画の野菜だけは最後まで青々と育ち続けていたと記録されている。人の楽園は難しい。だが野菜の楽園なら作れる──この教訓を「野菜を育てる」の一点に煮詰めたものが、オベロンⅠの正統後継機アン・ブレラである。
計画を通じた最大の収穫は、基礎設計を担った科学省のジェラルド・ファットマン博士との協力関係だと言われる。「植物学・作物学の父」と称された博士が品種と栽培理論を作り同社が天候を作る。この分業はプロスペローのテラフォーミング事業で「農業革命」と呼ばれた成果にも引き継がれ、同事業には同社の環境制御機材が大量に納入されている。社内では今も博士への敬意を込めて、アン・ブレラの栽培アルゴリズムの中核モジュールを「ドクターF」と呼ぶ慣わしが残る。
主力事業 PRODUCTS
主力は言うまでもなく宇宙野菜工場アン・ブレラの開発・運用である(詳細は用語データベースの項を参照)。完全自立型AIの共通管制による葉菜の周年生産を柱に、幹線宙域のドライブスルー型、アクアスの海中海藻工場「シー・ブレラ」など派生型の展開も続く。生産された野菜の多くはブレッドバスケット・コンビナートの流通網に乗って星系の食卓へ届けられており、「育てるブリトニー、届けるブレッドバスケット」の分業は業界の常識となっている。
一方で旧型であるVFX-水分凝結機の生産とメーカー保証も現在まで続けられている。この水分凝結機はパペトゥーンやマクベス、カタリナといった水資源の乏しい惑星の農業に必須でありライバル企業が多数現れた今もなお、この機種へのニーズはあり続けているのである。頑丈さは伝説の域にあり三世代使い続けても壊れないため買い替え需要がまるで発生せず、営業部が毎年頭を抱えていることは株主総会の恒例の笑い話となっている。
記録余話 ARCHIVES
乾いた星の農家にとって水分凝結機は家族同然の存在であり、パペトゥーンでは一台一台に愛称を付ける文化が根付いている。フォックス・マクラウドの実家である丘の上の牧場でもVFX旧型が現役であり、ジェームズ・マクラウドはこの水分凝結機が家に来た当時「ジェニファー」というよく分からない愛称で呼んでいたようである。見知らぬ女性の名を親しげに語る夫を見たヴィクシーが誤解の末ひと悶着あったと伝わるが、本稿の主題から外れるため割愛する。
同社の広報誌はこの逸話を引きながら、機械に名前を付ける農家の文化を「水をくれる相手を家族と呼ばずに何と呼ぶのか」と擁護している。なお件の牧場のジェニファーは今も自立稼働を続けておりメーカー保証の対象である。