概要 OVERVIEW
ブッチャーマンズ・ワークスはコーネリアに本社を置く食肉・タンパク食品メーカー。アヌビソイドやバステトイドなど家畜ケダモノとマドレッドの両系統を扱う肉食種族向けの認可精肉と、昆虫タンパク質による人工肉の二本柱で、星系の「肉」の過半を供給する。
多種族社会ライラットにおいて食肉は最も繊細な商品である。『ケダモノ』と人種の区別、種族ごとの忌避、無認可流通「裏市」の存在──同社はその全てと向き合いながら、「誰の食卓も、誰かの尊厳を傷つけない」ことを商売の条件にしてきた企業である。
沿革 HISTORY
創業は共和国の初期に遡る。初代「ブッチャーマン」ことバーニィ・ブラッドハウンドは市場の一角の精肉職人だったが、当時横行していた出所不明肉の中毒事件に憤り、仕入れから解体まで全工程を記帳して店頭に張り出す「開かれた肉屋」を始めた。この帳面が後の共和国食肉認可制度の原型となったことは、食品行政史の教科書に必ず載っている。
星系規模の企業に成長した契機は、昆虫タンパク人工肉の量産化である。開拓団とともに星系へ持ち込まれた昆虫類を分解・再構成するこの技術は、当初「代用肉」と侮られたが、独特の癖を好むパラノディアンやヘケトイドの市場を開拓。今では惑星キューで例外的な高値が付くブランド商品となっている。
主力製品 PRODUCTS
認可精肉部門の主力は家畜ケダモノの各種精肉で、種族別の忌避に対応した「類似性フィルタ」付きカタログが特徴である──ゼートイド人口の多い地域の店頭に豚肉が並ばないのは、このフィルタの仕事だ。星系の食肉流通の主力となったマドレッド精肉でも同社は最大手だが、癖のない味を物足りなく感じる肉食種族は多く、風味の強いケダモノ肉の売上は今も揺らいでいない。カタログはこの使い分けを前提に編まれている。人工肉部門では携行保存食「ブッチャーバー」が軍の標準糧食に採用されており、前線では通貨代わりに流通するほどである。
近年は冬眠休暇前の「食い溜め需要」に向けた高カロリーラインが秋の風物詩となっているほか、草食種族の同席する食卓向けに「匂いの出ない肉料理」シリーズを展開。異種族間の会食マナーを商品で解決する発想は、業界の教科書事例とされる。
食の倫理 ETHICS
同社は無認可流通「裏市」の最大の敵として知られ、流通経路の追跡データを当局へ無償提供している。ケダモノ肉をめぐる倫理論争では常に矢面に立たされるが、広報の回答は創業以来変わらない──「肉を食べる種族がいる限り、誰かがこの仕事を引き受けねばなりません。ならば、最も誠実な者が」。
工場では解体工程に就く従業員の精神ケアを義務化しており、肉食・草食を問わず従業員を採用する。「草食の検品員がいる肉屋」は同社の品質の象徴として、しばしば広告に登場する。
記録余話 ARCHIVES
社名の「ブッチャーマン」は創業者の渾名だが、現在の経営陣に肉食種族は半数もいない。現CEOは草食のセレノイドであり、就任会見での一言「私は肉を食べません。だから味見以外の全てに厳しくなれます」は流行語になった。
本社の食堂には創業者の帳面の複製が置かれ、最後の頁の余白にはこう走り書きが残っている──「安い肉はある。安い信用はない」。