[ CIS-HQ / CORPORATE FILE 18 ]
NINTENDOU
ニンテンドウ ── 消えた星の賭場から生まれ、星系最大の8大企業まで上り詰めたゲーム産業の覇者。社長は代々、不思議な力を持つと噂される妖狐の一族。その門には、いまは無き故郷の千本鳥居が立っている。
概要 OVERVIEW
Nintendou(ニンテンドウ)は、今日のライラット星系のゲーム産業で覇権を握る名門企業である。その規模はいまや星系最大を誇る8大企業の一角に数えられ、家庭用ゲーム機の出荷台数と看板作品の知名度において、この会社の右に出る者はいない。
だが企業DBがこの会社を特筆する理由は、規模ではなく出自にある。Nintendouは、いまは無き第6惑星ステファノーの都から生まれた会社である。星もろとも故郷を失いながら会社として生き延び、星系の頂点まで上り詰めた企業は後にも先にもこの一社しかない。
創業 FOUNDING
始まりは、ステファノーの都で博打を取り仕切る一軒の賭場であった。創業家はそこで使う絵札「花札」の製造元を兼ねており、ステファノーの草花を月ごとに描いた48枚の絵札は、意匠の美しさと絵柄の分かりやすさで他の賭場にも飛ぶように売れたと伝えられる。社名は古い言葉で「運を天に任せる」を意味しており、賭場の看板に掲げられていた口上がそのまま社名になったものである。
娯楽の少ない時代から、この会社が追求してきたのは一貫して「ひり付く遊び」である。手札一枚に晩飯が懸かる緊張、めくる指が止まる一瞬。その探求心は形を変えながら二百数十年受け継がれ、いまや星系中をにぎわせるゲーム産業の中核に進化している。
妖狐の一族 HOUSE OF THE FOX
社長は代々、創業家である狐系の一族が継いでいる。ステファノーに古くから住んでいたこの一族は「不思議な力を持つ妖狐の血筋」と噂され、歴代社長にまつわる逸話には事欠かない。曰く、市場の流行を発売の三年前に言い当てる。曰く、商談相手の嘘を匂いで嗅ぎ分ける。真偽はどれも定かでないが、少なくともこの一族が二百年以上にわたり娯楽の勝負所を外していないことだけは、業績が証明している。
星系各地の社屋の出入り口には、朱塗りの鳥居が幾重にも連なる回廊が必ず設けられている。これは一族の故地ステファノーの聖所にあった「千本鳥居」の再現であり、いまは星ごと消えたその風景を、社員と来客が毎日くぐって出勤するという趣向である。訪問者向けの案内板にはこう記されている。「この門の数だけ、我々には帰る場所があった」。
「楽しみ」の遍歴 A HISTORY OF PLEASURES
現在の健全な企業イメージからは想像しがたいが、この会社の社史には毛色の違う事業が並んでいる。賭場の直営に始まり、映像作品の貸しビデオ屋、そして詳細を社史が意図的にぼかしている「グレーなホテル産業」。要するに、大人の「楽しみ」と名の付くものなら何にでも手を出してきたのである。社史はこの時代を「遊びの定義が広かった時代」と一行で片付けている。
一連の事業は失敗と撤退の連続でもあったが後年の関係者は口を揃えて言う。あの迷走の時代に「人は何をしている時が一番楽しいのか」を煮詰め続けたことが後のゲーム開発の下地になったのだと。快楽と退屈の境目を二百年観察し続けた会社に面白さの目利きで敵う相手はいない。
転身 THE REFORM
賭場と裏路地の匂いをまとった侠客の一家が、星系最大級のホワイト企業へ変貌した過程は、企業史の講義で必ず取り上げられる題材である。近年のNintendouは純粋に「面白いゲームの開発と普及」を第一に掲げ、下請け企業への支払いの速さと従業員待遇の手厚さは業界の基準そのものになっている。パペトゥーンの悪徳詐欺会社から更生したダイヤモンドシティズ.incとしばしば比較されるのはこのためであり、「キューの光落ちとステファノーの狐」は、闇から足を洗った企業の代名詞として並び称されている。
もっとも当の会社はこの美談めいた扱いをやや迷惑がっている節があり、現社長は取材にこう答えている。「うちらが変わったんやおへんえ。一番ひりつく遊びが、時代につれて博打からゲームに変わっただけどすえ」
イースターエッグ EASTER EGGS
Nintendouのゲームには気づかれないように「ステファノーの記憶」が仕込まれていることが有名である。冒険の舞台の片隅に咲く実在した固有種の花。街の背景に紛れ込む千本鳥居。とうに消えた星の童謡を編曲した戦闘曲。攻略には一切関係のないこれらの隠し要素は発見されるたびに星系ネットで共有され、由来を調べた若者たちが初めてステファノーの戦いの歴史に触れる…という流れが定着している。
教科書の記述が薄れてもゲームの中の花は枯れない。若い世代が星系の悲劇を忘れずにいる要因の一つが娯楽企業の隠し要素であるという事実は教育行政にとっては複雑な話であるが、この会社にとっては本望であるらしい。社内では一連の仕込みを「弔い」と呼ぶことが退職者の回顧録で明かされている。
記録余話 ARCHIVES
開発思想として社内に受け継がれるのは「枯れた技術の水平思考」という言葉である。最先端の部品ではなく十分に安くなった実績のある技術を誰も考えなかった遊びに転用する。この思想は時代の先を行く技術に社運を賭け続けたPEGA Gamesと綺麗な対をなしており、両社のシェア対決が長期化した構造的な理由でもある。翼で飛びすぎる馬と、地面を離れない狐。両社のファンによるこの比喩は当人たちも気に入っているという。
なお、創業以来の花札の製造は現在も続いている。ゲーム機の生産ラインの隅で、いまも職人の手作業で刷られる48枚には消えた星の草花が月ごとに描かれたままである。星系で唯一「実物を見た者がいない花の図鑑」としてこの絵札を買い求める民俗学者は多い。会社はこの製品を一度も廃番にしたことがなく今後もしないと公言している。