THE LAST
DRAGON KING
竜の一族を率い、数百年にわたりフォルトナの部族を恐怖で束ねた圧制者。病に朽ちかけた体を帝国の手で機械へ置き換え、失った力を数倍にして戻ってきたとされる。帝国に与しながら、その意図だけが誰にも読めない。
膝を折るのは我が一族ではない。お前たちの方だ-ドラゴンロック放棄の際の宣告・恐竜族の口伝より-
概要 ─ OVERVIEW
あれは部族ではない。ひとつの時代が、まだ死に切っていないだけである― CDF情報部 フォルトナ情勢分析 補遺より
ドラコーはフォルトナの秘境ドラゴンロックを本拠とするドラコニア族の族長である。空を覆う翼と大地を裂く爪、体内から放つ火炎を備えた竜の一族を率い、数百年にわたって周辺の部族へ独裁に近い圧制を強いてきた。現在のアソーカ族の王に敗れて以降は表舞台から姿を消しているが、その名はいまもフォルトナの部族社会で最も重い響きを持つ。
共和国の分類上、彼は帝国側の協力勢力に置かれている。だが情報部の内部では、この整理そのものに異論が絶えない。帝国から与えられたものは延命の技術と兵器だけであり、彼が帝国の目的のために動いた形跡は一つも確認されていないからである。共和国でも帝国でもなく、フォルトナの部族連合ですらない。分析官たちが彼を「第4の勢力」と呼ぶのは、便宜上の分類が一つも当てはまらないためである。
直系 ─ THE DIRECT LINE
彼の本名はバルドルト・ドラコニアという。一族に伝わる古い言葉で「光の竜の騎士」を意味する名である。族長位を継ぐ者だけが名乗りを許され、外の者の前で口にされることはまずない。アニマリアの記録に「ドラコー」の呼称しか残らないのは、彼が名を惜しんだためではなく、この名を聞いた相手が誰一人として生き延びなかったためであると伝えられる。
ドラコニア族はフォルトナに最初に降りた竜の騎士の血を引くとされ、ドラコーはその直系にあたる。フォルトナのほかの氏族が惑星の環境へ同化し、幾度もの先祖返りを経て今日の姿へ分化していったのに対し、この一族だけが本来の姿を保ち続けた。逆に言えば、星に住むすべてのサウリアンは同じ祖を共有している。ただし面影を残す者はもういない。
直系とはいえ、約2億年の歳月は一族から多くを削り取った。残されたのは姿と力だけであり、祖先が何を追ってこの星へ来たのか、なぜ翼を持つに至ったのかを語れる者はいない。ドラコニア族が自らを「選ばれし統治者」と信じて疑わないのは、失われた目的の跡地に残った最後の抵抗なのかもしれない。理由を忘れた誇りだけが、二億年を越えて一族に残った。
一族の黄昏 ─ THE LAST MALE
ドラコニア族は長命種であり、その寿命は500年を超えるという。ドラコー自身も遥か昔の時代から族長として君臨してきた記録が残る。もっとも、その長い治世を通じて彼が握り続けたのは一部族の族長という地位に過ぎない。星系の記録に彼の名が現れる頻度は、その力量に比してあまりに乏しい。
一族の衰退は緩やかに、そして決定的に進行した。ここ数百年のあいだドラコニア族には男性が一人も生まれていない。現時点で確認される限り、ドラコーは一族最後の男性である。最盛期には30人ほどを数えた構成員も、近年になって蔓延した正体不明の伝染病により激減した。この病はフォルトナのほかの部族には一切の被害を出さず、ドラコニア族のみを正確に選んで猛威を振るった。
ドラコーもこの病に侵され、生死の境をさまよった時期が長く続いた。数百年にわたって部族を恐怖で束ねてきた竜が、翼を広げることすらできぬまま朽ちようとしていた。彼が病床にあった年月こそ、フォルトナの2大部族が失われた統治を取り戻すために与えられた、唯一の猶予だったのである。
圧政 ─ THE TYRANT OF DRAGONROCK
ドラゴンロックはフォルトナでも有数の部族抗争が続く危険地帯であり、ドラコーはその地に君臨する絶対者だった。アソーカ族・ソンテイル族・スノーホーン族、そして同じ土地を縄張りとしていたオステガ族など数多の部族が、恐怖と力によって彼の統治下へ組み込まれた。白兵戦最強と称されたオステガ族ですら例外ではない。ナハシュ・ギルバスターを生んだ一族がドラゴンロックを追われるに至った遠因は、この圧政の時代にまで遡る。
やがて彼は軍門に下ったシャープクロウ族と同盟を結ぶ。臆病で非力だった弱小部族が外来の武器を得て牙を剥き始めた時期と、この同盟の成立時期は正確に重なる。近年の「部族統一」を称した大規模な侵略活動は、シャープクロウ族を実行部隊として使役するかたちで進められた。先代族長ザボックの代から始まったこの構図は、族長がスケール将軍へ代わってもなお続いている。
フォルトナの部族社会が今日まで抜け出せずにいる抗争の連鎖は、その多くがドラゴンロック発祥である。星の外から見れば辺境の一地方の争いに過ぎない。だが恐竜族にとって、ドラゴンロックという地名はいまも口に出すことをためらわれる言葉である。
偽りの忠誠 ─ THE FALSE OATH
三百年ほど前、ドラコーはアソーカ族の王族に仕えていた時期がある。竜の一族の長が他部族の王へ膝を折るという前例のない出来事は、当時のフォルトナで長く語り草となった。だが、それは王位を簒奪するために用意された偽りの忠誠だった。彼は王宮の内側から時間をかけて信を積み、最も効果的な瞬間を選んで反旗を翻したのである。
この反乱がもたらした損害は、王家の被害だけに留まらなかった。それまで曲がりなりにも保たれていた部族同士の繋がりが完全に断絶し、以後フォルトナは互いを疑い合う長い抗争の時代へ入る。現在に至るまで続く争いの原因を作ったのは、この一度の裏切りである。聖地クアン・アタ・ラチュを巡る争いだけが数千年の記録に一度も現れないという事実は、逆に言えば、それ以外のすべてが争いの対象になったことを意味している。
アソーカ族が王の手で統治を取り戻し、ドラコーがドラゴンロックを放棄したのは近年のことである。ただし共和国の分析はこの勝利を額面どおりには扱っていない。ドラコーが敗れたのは病により衰弱し切った後であり、全盛期の竜と現アソーカ王が正面から刃を交えた記録は存在しないからである。あの敗北は決着ではなく、中断であったと見るのが妥当とされる。
機械竜 ─ THE STEEL DRAGON
死病に追い詰められたドラコーは、同盟者であるシャープクロウ族を経由して帝国軍と接触した。帝国が差し出した延命の手段は、フォルトナ地表の恐竜改造施設で進められていた「恐竜兵器化プロジェクト」の被検体となることである。竜の王が実験台の名簿に載るという取引であり、彼は生き延びるためにこれを飲んだ。全身を機械へ置き換える大手術の末、ドラコーは機械竜として復活を遂げたと考えられている。
被検体となった当初、彼は恨み言を繰り返していたと伝えられる。二億年を越えて受け継がれた体を鋼へ差し替えられたのだから、無理からぬところではある。だが機械化の結果、ただでさえ強力だった飛翔能力と火炎の息は数倍にまで引き上げられた。そして各種の兵器を体へ直接接続し、自らの手足として使役できるという事実に気づいた瞬間、彼は掌を返してプロジェクトを褒めそやすようになったという。失ったものより得たものが多いと判断した時の切り替えの速さは、この男の本質をよく表している。
同じフォルトナの、同じドラゴンロックの出身者が、全身を鋼に置き換えて星系最恐と呼ばれるに至った前例は既に存在する。かつてドラコーの圧政を逃れた側の一族から出た男が、後にその道を先に通っていたことになる。ナハシュ・ギルバスターの轍を、圧制者の側が数百年遅れて踏んだという構図は、フォルトナという星の因果をそのまま体現している。
第四の勢力 ─ THE FOURTH BANNER
ドラコーは尊大かつ大胆不敵であり、侵略者でありながら高い知性を併せ持つ。聖地の遺跡を解析して理解する一族の知恵は彼において最も濃く、力に頼るだけの圧制者とは明確に一線を画す。同盟者であるスケール将軍が彼を一目置きながら、同時に警戒を解こうとしないのはこのためである。恐怖で他者を従える者同士は、互いの手口を最もよく知っている。
そして彼は、一部族の族長という現状を一度も受け入れていない。他の種族が持ち得ない力を備えながら、なぜ自分の版図がフォルトナの一地方に留まるのか。その不満は数百年ものあいだ形を変えずに保たれ、機械の体を得たことでいよいよ具体的な野心へ変わりつつあるとみられる。星を出た彼が何を目指すのかについて、共和国はいまだ有効な予測を立てられていない。
脅威評価の欄に記された87という数値は、あくまで暫定値である。確認された交戦記録が絶対的に不足しているためにこの値に留まっているのであり、実数はこれを大きく上回るとする意見が情報部では多数を占める。彼が帝国の旗の下で戦うのか、それを裏切るのか、あるいは共和国の側に立つ日が来るのかすら、現時点では判断材料がない。読めないという一点において、彼は星系のどの敵よりも危険である。
記録余話 ─ ARCHIVES
▮ 軍事機密
ドラコニア族の正体については、惑星キューの神聖帝国遺跡の発掘情報と聖地の解析結果を照合した結果、かつてクラゾアと闘い、フォルトナまでそれを追ってきた竜の戦士「カメリアン」の末裔である可能性が高いとされる。ドラコーの本名バルドルト・ドラコニアには、外の者へ明かされない家名がもう一つ続く。「カメリアン」がそれである。二億年前に何を追ってこの星へ降りたのかを一族が忘れ果てた後も、その事実だけが名の中に保存され続けていたことになる。
また、遺跡の仕掛けやスペルストーンの声を感じ取るスピリット感応の資質について、確認例はハイト族・レッドアイ族・ドラコニア族の族長に限られる。トリッキー王子の幼年での発現が伝承にすらほぼ例を見ない異常事態として扱われている一方、ドラコーの資質は一族の血統が本来備えていたものである可能性が高い。彼が聖地と遺跡に執着する理由も、この一点で説明が付く。
フォルトナ戦役の終結後、壊滅した帝国基地の跡地から正体不明の言語による通信が傍受されている。記録には、スケール将軍と、彼と対等に語る巨大なサイボーグの竜の存在が残された。通信の相手がドラコーであると同定されるのは、これよりだいぶ後のことになる。当時の調査記録にはただ「正体不明の第三者」とのみ記されており、報告を受けた司令部がそれ以上の追及を行った形跡はない。
ドラゴンロックの岩壁には、翼を広げた竜が山脈の上空に描かれ、その下に部族の民が伏している古い壁画が残る。放棄された領地に立ち入った調査隊が唯一持ち帰った記録である。壁画に添えられた口伝はごく短い。「翼を畳んで生きるには、この星は狭い」。彼が領地を捨てる際に残したとされる言葉であり、フォルトナの外へ向けられた最初の宣告として、恐竜族のあいだで語り継がれている。