概要 OVERVIEW
ダイヤモンドシティズ.incは、ハクティバ通商連合圏で建設と金属加工を請け負う大企業である。キューのエキュメノポリスを象徴する白亜の摩天楼群の多くは同社の施工であり、本社は首都アルピニアで3番目に大きな摩天楼を占める。腕一本で成り上がる者を尊ぶハクティバ圏において、同社は誰もが名を挙げる憧れの就職先となっている。
本社の前に広がるタンガタ自然公園は、社長の提案で作られた社員の憩いの場である。全てに値札の付く星で、値札のない緑地を維持し続ける企業は同社をおいて他にない。
ダイヤモンドシティズ.inc ── ハクティバ圏の空の形を決めてきた建設・金属加工の一流企業。惑星キューの白亜の摩天楼を建てている会社と言えば話が早い。その始まりが、星系屈指の悪徳詐欺会社だったことはあまり知られていない。
ダイヤモンドシティズ.incは、ハクティバ通商連合圏で建設と金属加工を請け負う大企業である。キューのエキュメノポリスを象徴する白亜の摩天楼群の多くは同社の施工であり、本社は首都アルピニアで3番目に大きな摩天楼を占める。腕一本で成り上がる者を尊ぶハクティバ圏において、同社は誰もが名を挙げる憧れの就職先となっている。
本社の前に広がるタンガタ自然公園は、社長の提案で作られた社員の憩いの場である。全てに値札の付く星で、値札のない緑地を維持し続ける企業は同社をおいて他にない。
同社の前身は、パペトゥーンに本社を置いた詐欺グループである。手口は単純だった。コーネリアで居場所を失った人材へ「最果ての惑星で超古代文明の遺跡を発見、探索クルーを募集中」の噂を流し、借金までして海を渡ってきた夢追いたちを、かつての希少元素採掘プラントの廃材置き場へ放り込む。仕事の実態は、廃材に残る微量の希少元素を掻き集める夢も希望もない作業であり、賃金は劣悪、支給されるエラダード製の栄養食はさらに劣悪だった。悪徳詐欺会社の教科書のような企業であったと、当時を知る者は口を揃える。
当時の経営者の人物像を伝える録音が一つ残っている。岩陰での通話である。「こういう夢見がちの間抜けな狐が一番カモなんだよな! 狐なのに鴨…がははっ!」。後年この録音を公開したのは、ほかならぬ本人であった。
普通なら検挙されて終わる会社である。それが今日の姿へ変わった理由を、関係者は例外なく社長の「光落ち」に求める。パペトゥーンの田舎町では雇い主も雇われも同じ宿舎に寝起きするほかなく、社員たちと苦楽を共にするうちに、ドブのように濁っていた社長の精神は気が付けば真っ当な人格へ矯正されていたのである。騙されて連れて来られたはずの社員たちが会社に残り続けたことが、この更生の何よりの証拠とされる。
廃材の山から金目の金属を選り分けてきた経験は、そのまま金属加工業の目利きの土台となった。やり方は強引だったものの、腕っぷしと経営力が全てを決めるハクティバ圏では、コアワールドで邪道とされる経営戦略もむしろプラスに働いた。廃材を拾っていた会社は、やがて摩天楼を建てる会社になった。
アルピニアの摩天楼はパラニド神聖帝国の大神殿を基礎杭として建っている。かつて「超古代文明の遺跡」を騙った会社が、今は本物の超古代文明の真上に本社を構えているという皮肉を、古株の社員たちは「うちの求人広告は50年遅れで本当になった」と笑い話にしている。
社長と黎明期の社員の一部は、今でも年に何回かパペトゥーンの旧社屋に赴き、現地の仲間たちと当時の思い出を語り合っているという。その席で決まって出るのが、ある日突然姿を消したトムという狐の同僚の話である。「あいつは今でも超古代文明を探してんのさ~」と誰かが茶化すたび、社長は同じ言葉を返す。「馬鹿野郎!茶化して言うんじゃねぇ… いや、むしろそのほうが良いか。それならトムは、戻ってくるかもしれんからなぁ」
社名の由来を問われた社長の返答が、社史の扉に刻まれている。「一番硬くて、一番値打ちのあるものから取った。うちの社員のことだ」