THE MAN
WHO LEFT
THE DOOR OPEN
星系最強の情報要塞を攻めた男が司法取引でその要塞の鍵を預けられ、覚えやすさだけで鍵を作った。元CDF情報戦略本部の機密情報取扱責任者にしてサイバークラッカー集団「アンニュイング・ドッグ」の構成員。CDF史上最大の情報漏洩の原因を作った張本人として懲役250年の判決を受け現在は執行猶予中に逃走して行方不明である。本記録は再犯時の追跡用マーカーを兼ねる。
| NAME | PONJURO SADOGASHIMA / サドガシマ・ポンジュウロウ |
| RACE | 狸系アヌビソイド — 突然変異とみられる小柄なマスコット体型 |
| HOMEWORLD | コーネリア コーネリアシティ ダウンタウン |
| FORMER POST | CDF情報戦略本部 機密情報取扱責任者(司法取引による再雇用・現在は解雇) |
| AFFILIATION | サイバークラッカー集団「アンニュイング・ドッグ」— 構成員4名の一人 |
| RECORD | ⚠ ウイルス「810-USO800」作製・違法ハックロムおよびダークチップ所持・機密情報漏洩の原因 |
| SENTENCE | ⚠ 懲役250年(余罪・波及した刑の合算)— 執行猶予期間中 |
| SKILL | アセンブリ言語起点の多言語プログラミング/ハックロム作成/ウイルス設計 |
| HABIT | ⚠ 端末に「覚えやすいパスワード」を付ける癖 — 本記録の存在理由 |
| STATUS | 逃走中 — 消息不明 / 星系ネット上に再出現の兆候なし |
概要 ─ OVERVIEW
ケモの魔の手からは逃げられねえぞタヌキ野郎! パイセンは死ぬまでお前について回るからな~!?―公開裁判傍聴席からの罵倒より抜粋
サドガシマ・ポンジュウロウは元CDF情報戦略本部の機密情報取扱責任者であり、サイバークラッカー集団「アンニュイング・ドッグ」の4人の構成員の一人である。かつて旧サルジーナヤ連邦に国家非常事態宣言を出させて住民を震撼させたコンピュータウイルスの亜種を作製した容疑で検挙されたものの、そのプログラミング技能を情報局へ活用することを条件とした司法取引で減刑と再雇用を勝ち取った異例の経歴を持つ。
現在は情報漏洩の原因を作った容疑で解雇されており、余罪と波及した刑の刑期を合算した懲役250年の禁固刑の判決が確定している。現時点では執行猶予期間にあるが本人は逃走し消息を絶っている。人物データベースに本記録を残す理由は経歴の紹介というより、この男が今後新たな情報漏洩を引き起こした際に追跡するためのマーカーとしての意味合いが強い。
出自 ─ EARLY LIFE
経歴は至って普通の一般人である。ヤル・デ・ポンと同じ狸系のアヌビソイドであるが、突然変異の影響か外見は小柄なマスコット体型でありそれ以外に変わったところは特にない。コーネリアのコーネリアシティ、そのダウンタウンの出身であり父は星系ネットのインフラを黎明期から支えた大企業に勤めていた。幼少期からPCのある環境で育った彼は幼いうちにその世界へのめり込みアセンブリ言語の開発を足掛かりに高等言語も独学で習得している。会得した能力の使い道はゲームのハックロム作成であった。
当時屯していた星系ネットのハックロム開発掲示板には、後に「ドラコニアン・ブレイダー」の作者として名を馳せるトニー・フォックスも出入りしていたという。ポンジュウロウが作成した「育成ゲーム」のハックロムは地味ながらも根強いファンを持っていたが就職を機に活動は一旦休止となっている。ここまでの彼は星系のどこにでもいる一人の趣味人であった。
アンニュイング・ドッグ ─ THE ANNOYING DOG
ハックロムを作るだけの一般人を凶悪なクラッカーへ変貌させたのは、この掲示板で出会った一人の男「オオハシ・イヌジロウ」の存在である。サイバークラッカー集団「アンニュイング・ドッグ」を運営する5代目リーダーからの直々の誘いは、しょうもないネットスラングを並べた緩い勧誘であった。だが持ち掛けられる内容は興味をそそられるものばかりだったという。
最初こそネットミーム「野獣パイセン」を扱うジョークプログラムの開発で笑いを取ることに終始していた集団であったが、より強い刺激を求めたイヌジロウはやがて大胆な計画を持ち掛ける。CDF情報戦略本部の乗っ取り作戦である。
810-USO800 ─ THE SIEGE
こちらの防衛ラインを「野獣」が笑いながら駆け抜けていった…― CDFサイバーセキュリティ課 当直記録より
現在のCDF情報戦略本部は星系でも最強クラスのセキュリティを施された存在であり、それは現実空間だけでなくサイバー空間においても同様である。このサイバー世界の要塞を落とし機密情報を野獣パイセンのミームと共にばら撒くという極悪というべきプログラムの作製は、入念な下調べのもと5年もの歳月をかけて周到に準備された。かつて猛威を振るい今なお亜種が蔓延する某コンピュータウイルスの正統進化にして、当時の星系で最強最悪と評されたコンピュータウイルス「810-USO800」はこうして生まれたのである。
作戦決行の日、星系内5か所に散らばる情報データベースの障壁は瞬く間に破られ猛烈な勢いで「野獣パイセン」が防衛ラインを突破していった。騒ぎを聞きつけた外野のハッカーや野次馬たちも事態に興味を持ち始め、勢力と種族を越えた巨大なクラッカー集団が即席で結成される。サイバー空間から…しかも味方陣営の惑星からの攻撃という経験したことのない未曽有の危機にCDFは陥り、この日はサイバーセキュリティ課とクラッカー集団の総力戦になったと記録されている。勝手に弟子入りを志願する野獣パイセンの信望者、通称「ケモガキ」も殺到したが、CDFとの全面抗争に集中したメンバーはこれを軽くあしらった。…この判断が後に最悪の未来へ発展することをこの時はまだ誰も予想していなかった。
結論から言えば、最終防衛ラインの突破直前にCDF内の情報セキュリティ担当が総出で防疫プログラムを作成し、連携した管制AI「アトラス」の援助もあって「810-USO800」は3標準日で鎮圧された。また鎮圧の際にデータの配信元IPを末端のハッカーがリークしたことで「アンニュイング・ドッグ」の所在が明るみに出て4人全員があえなく逮捕される運びとなった。作戦開始時に集まり声高々に騒ぎ立てていた野獣パイセンの信望者たちは首謀者の逮捕を聞くや否や全員が知らぬ存ぜぬの態度に転じ、この事件は「最初からなかった」とすら言い始める有様であった。
裁判と取引 ─ THE PLEA BARGAIN
逮捕された4人のうちリーダーのイヌジロウは匿名の嘆願署名により刑が大幅に減軽され実質お咎めなしとして釈放された。他の構成員のうち一人は裁判中に持病で入院して責任能力を問えず事実上お咎めなし、もう一人は素直に罪を認めたことでプロスペローの雑草毟り一年の社会奉仕の処罰にとどまっている。
本記録の主であるサドガシマはというと、法廷で見苦しく罪の否認を続けたことに加え所持していたPCから違法ハックロムとダークチップの数々が押収されたことで別件でも起訴され罪が倍増する結果となった。余りの醜態を晒し仲間や取り巻きにすら見捨てられた彼を見かねた裁判長の取り計らいにより、司法取引としてCDF内のデータ管理を引き受ける提案がなされたのである。通常なら攻撃を仕掛けてきた犯罪者に管理者権限を渡すなど酔狂の沙汰であるが、当時のCDFは内部情勢の混乱期にあり紆余曲折を経て提案は通ってしまったと思われる。この判断が後にさらなる事件を起こすことになるとは裁判長もCDF長官も思っていなかったようである。
悪い癖 ─ THE HABIT
暫くは真面目に勤務していたが、ここでポンジュウロウの悪い癖が明るみに出る。彼には端末に覚えやすいパスワードを付ける癖があり、仕事慣れした油断からCDFの管理者権限にすらこの流儀を適用し始めたのである。
そのパスワードは当時有名であったゲーム会社KENAMIの裏技コマンド「KENAMIコマンド」と、同社の音楽ゲームのキー譜面の番号を組み合わせて改変したものであった。改変といっても通常のKENAMIコマンドの後ろに音楽キーの並びを直接繋げただけの20文字のパスワードである。表面上は堅牢であり暫くは問題が明るみに出ることはなかった。
悪夢の再来 ─ THE LEAK
あれはゲームに関係しているってバッチェ分かったっすスね~。僕様を無視した奴は地獄に落ちる。ハッキリわかんだね― ネットに書き込まれた少年の投稿と推定される内容より
忘れたころのある日悪夢は再来した。「810-USO800」事件の際に勝手に「アンニュイング・ドッグ」への弟子入りを志願したケモガキの一人は自身を軽く見られたことに憤っており、4人の中で最初の標的にポンジュウロウを選んだのである。ポンジュウロウが組み上げたパスワードを巧妙に読み取って解析するスパイウェアを開発した少年は、それがゲームに関連するものだと見抜くとすぐに解析を開始し数か月の時間をかけた末にこれを解明してしまう。奇しくも同時期にAIの大規模な発展があったことも後押しになったと考えられる。
パスワードを看破した少年はCDF内の全ての機密情報をポンジュウロウの名義で星系ネットに暴露し、共和国軍の機密文書は尾ひれを付けて瞬く間に星系中へ広がった。この情報は後に最悪の形で星系を巻き込む事件に利用されたと考えられているが、その後の激動の流れを考えれば今となっては憶測や推測をするしかない。
判決 ─ THE VERDICT
ここで話は冒頭に戻る。ポンジュウロウはこれまでの全ての罪が加算されたことで、懲役はもはや2回転生したとしても足りない水準に達し「死刑にならないだけマシ」と言われる状態になった。勝手に崇拝して逆恨みし闇落ちした少年によって罪が重くなったことは明らかであり情状酌量の余地はあるとCDFは判断している。だが起きた被害の大きさを考えれば冗談では済まされない規模であることを忘れてはならない。
事件後、当該の認証キーは速やかに変更されたと発表されており鍵の様式そのものを改める方針も固まりつつあった。だがポンジュウロウが改めたというパスワードを巡る審議の最中に帝国が本格的な侵攻を開始し、マクベスが攻められたことで情報戦略本部はそれどころではなくなった。
記録余話 ─ ARCHIVES
状況に耐えかねたポンジュウロウは着の身着のままで逃走し現在の消息は明らかになっていない。星系ネットでは「IGA残党の指揮者として活動している」「フォルトナで本当の野獣になった」「ガロウ連邦に逃げ延びた」など根も葉もない噂が流されているが何れも真偽は確認されていない。
闇落ちした少年のその後も不穏である。いくら天才とはいえケモガキであることも相まって性格は最悪なものだったと言われており、最終的に不登校となって精神科の施設へ連れて行かれる途中で逃走、ポンジュウロウと同じく行方をくらました。ただしこちらの行き先は完全に特定されている。コンピュータウイルスを改良する手腕を買われたのか、現在はセティボスⅢに合流しているとみられ、そこで軍事顧問の下で無人兵器の開発に勤しんでいるというのである。世の中何が起こるか分からないものである。