THE HELIUM
MOON
ヘリウムとキセノンからなる分厚い大気と低重力が既知の兵器をことごとく無力化する、星系のどことも比較できない特殊環境の衛星。潮汐熱に温められた火山とピンクの菌類の森に覆われ、かつて独立星系連合が要塞都市シコラクスを築いた。現地では「ロザリア」と呼ばれ、現在はガロウ連邦が星全体を封鎖し要塞跡以外の二つの街を管理している。
| DESIGNATION | SETEBOS IV / セティボスⅣ |
| LOCAL NAME | ロザリア(セティボス圏の非公式呼称) |
| DOMAIN | セティボス圏 — 第3衛星 |
| LOCATION | Sector Ͼ-2 — ガロウ連邦管理宙域 |
| BODY TYPE | 惑星級大型衛星 — 火山活動型(「温められた衛星」) |
| GRAVITY | 0.4G — 非常に低い |
| ATMOSPHERE | ヘリウム主体・キセノン約1割・酸素なし — 高圧・強浮力 / 呼吸不可・昏倒性 |
| ORBIT | セティボス周回 約20標準日 — Ⅱ・Ⅲと1:2:4の軌道共鳴 |
| CLIMATE | 温暖 — 潮汐加熱による恒常的な火山活動 |
| NATIVE LIFE | 共同意識体「オー・ムー」(森の守護者) / ワープ魔女(未接触) |
| FACTION | ガロウ連邦 — 封鎖中(キャリバン・デステモナを管理) |
| FORMER | 旧独立星系連合本拠 — 軍事要塞都市シコラクス(3975年消滅) |
| SETTLEMENTS | シコラクス(跡地) / キャリバン / デステモナ / 第4集落(建設中) |
| POPULATION | 約6,000(推定) |
| STATUS | 立入不可 — 要塞跡は封鎖・監視対象 |
今度来るときはマントも持ってこないと-ワープ魔女への接触任務時のスリッピー・トードからの通信記録より-
OVERVIEW ─ 概要
「地面のない星に旗は立てられない。だから連中は、鉄も火も死ぬ星に城を建てたようだ」― IGA掃討戦従軍記者の手記より
セティボスⅣは星系唯一の巨大ガス惑星セティボスの第3衛星である。セティボス圏では「ロザリア」の名で呼ばれ、独立星系連合(IGA)が台頭するまでは小さな観測所があるだけの星であった。ライラット星系のどことも比較できない特殊環境を持つ衛星であり、ヘリウムとキセノンからなる分厚い大気と低い重力が既知の兵器群をことごとく無力化することで知られる。
この環境を籠城の条件として選んだのが独立星系連合である。軍事要塞都市シコラクスはIGA戦役の終局の舞台となり、宇宙歴3975年の白兵戦の末に自爆で消滅した。連合が消えた今この星を実効統治しているのはガロウ連邦であり、要塞跡は無主のまま封鎖され残る二つの街は連邦の管理下にある。
GENESIS ─ 形成史
セティボスの大型衛星群は若い惑星の周囲に生じた周惑星円盤から集積したと考えられており、第3衛星もその例に漏れない。隣のセティボスⅢが氷の豊富な軌道帯に生まれたのに対し、セティボスⅣは岩石と揮発性物質の混ざり合った領域で集積したと解析されている。円盤のガスに含まれていた原始のヘリウムはこの過程で岩石内部に閉じ込められた。さらにこの星の岩石は重い希ガスのキセノンまでも大量に抱え込んでいる。通常の岩石天体では鉱物の奥に封じられたまま二度と地表へ戻らないはずのキセノンをこの星が吐き出し続けている理由は惑星科学の古い謎の一つである。
気候を決めているのは太陽ではなくセティボスである。第1衛星セティボスⅡとⅢとの1対2対4の軌道共鳴が公転軌道の歪みを保ち続け、セティボスの潮汐力が地殻を絶えず揉みしだいて内部を加熱している。この潮汐熱によって星の内部からは常に火山の噴煙が上がっており、地表は外縁宙域にあって非常に温暖である。惑星科学者がこの衛星を「温められた衛星」と分類する所以である。
前述の通り火山性ガスに混ざって星の内部から漏れ出すヘリウムとキセノンが、この星の大気を作り出している。重力がコーネリアの4割しかない天体が本来なら保持できないはずの軽いヘリウムを分厚い大気として維持できているのは、火山活動による絶え間ない供給が宇宙空間への散逸を上回っているためと解析されている。ただし観測される噴出量を全て積み上げても大気の総量と散逸の速さは釣り合わず、収支には説明のつかない誤差が残る。この誤差を埋めるためヘリウムの供給源となる未知の機構が軌道上に存在するという説が航行局の一部で唱えられている。セティボスの放射線帯から荷電粒子を漏斗のように衛星へ注ぎ込む自然の機構とも、何者かが置いた装置とも言われるが観測で確かめられたものではない。いずれにせよ噴煙が止まれば大気もいずれ失われると想定されており、この星の空気は火山が吐き続ける限りにおいてのみ存在すると思われる。
GEOGRAPHY ─ 地理・環境
大気の主成分は軽いヘリウムであり、これに重い希ガスのキセノンがおよそ1割の比率で混ざる。性質の相反する二つの気体の組み合わせがこの星の大気を奇怪なものにしている。ヘリウムは熱を奪い、キセノンは重さと不活性を与える。高圧の大気は重いキセノンのおかげで見かけの軽さに反して密度が高く強烈な浮力を生み出す要因となっている。大気組成中に酸素は存在しないため、地表に降りる者は酸素供給装置と付属のマスクを必ず携行する必要がある。低い重力と高い浮力の組み合わせは歩行にすら影響し、足が浮き上がる感覚と格闘しながら進むことになる。気温は火山活動によって常に温暖であり噴煙と硫黄の匂いが地表を覆っている。
キセノンはあらゆる物質と反応しない気体であると同時に、生体の神経の反応まで止めてしまう気体でもある。高い分圧で吸い込めばものの数呼吸で意識を失い麻酔にかかったように倒れる。マスクの破損はこの星では窒息だけではなく昏倒による速やかな意識喪失を意味する。重いキセノンは風のない窪地や火口の底に溜まりやすく、調査班はこれを「キセノン溜まり」と呼んで最も警戒している。
この環境において既知の兵器群はまるで使い物にならない。通常の火薬系兵器は熱伝導率の高いヘリウム大気に燃焼熱を奪われて発射薬が安定して燃えず、辛うじて撃てたとしても弾道は浮力に狂わされる。唯一使用に耐える火器はそれ単体で燃焼が可能であるエンバーガスを用いたガスバーナーや火炎放射器の類に限られる。レーザー系兵器も無事では済まない。キセノンは光に極めて反応しやすい気体でありレーザーのチャージに反応して大気そのものが青白く光り輝く。隠れて撃つことができず射手は常に居場所を晒す危険を負う。戦闘機はさらに深刻であり既存の機体は出力が出すぎてまともに飛行できない。IGA掃討戦で共和国軍が投入した「出力を殺した」特殊調整機はこの星のために生まれたものである。
白兵戦も同じ問題を抱える。銃が使えずマスク越しの視界と浮力に足を取られる体で火と刃を振るうほかない戦場は、直接乗り込む戦闘を非常に厄介なものにしている。シコラクス白兵戦で共和国の突入部隊と連合の守備隊がともにバーナーを主武装として戦った記録は、この星の環境が戦い方そのものを決めてしまうことをよく示している。
軌道から見たセティボスⅣはオレンジとピンクという不思議な配色をしている。オレンジは硫黄と火山性の堆積物の色であり、ピンクは次の項に記す粘菌類の森が惑星の様々な場所を覆う色である。
ECOLOGY ─ 生態
この星の地表を覆うピンクの森は厳密には森ではない。菌糸のように見える管の網は粘菌に似た一個体の超巨大な生物であり、黄色やピンクや赤の管が器官を繋いで地表の広い範囲に広がっている。この生物はヘリウムで呼吸し火山が土壌へ吐き出す硫黄酸化物や重金属といった汚染成分を分解して生命力へ変えているため火山のエリアに多く分布している。菌糸の管が血管のように枝を張って森を作り出す様子はカタリナの雨季に見られるシダとキノコの森とよく比較されるが、生態としてはライラット星系のどの生態系とも異なる独自のものである。有機的な外見と独特な配色からか生理的嫌悪感を催す者も多いという。
コーネリア科学省の古い開発資料にはセティボス圏の調査資料が含まれていたことが分かっている。汚染物質を喰らって際限なく広がるこの生物が惑星ベノムを覆うベノム・セルの着想元の一つになったという噂は根強く、科学省はこれを肯定も否定もしていない。少なくとも、コチラはベノム・セルのような暴走する生体兵器などではなく通常であれば有害な成分を無害なものに分解して糧にしており、形態こそ奇怪であれど至極真っ当な生命の姿であるといえる。
この森には巨大な虫のような生物が分解者として共生しており、森を破壊する存在を排除しようと襲い掛かってくる。「ピンクの森の守護者」として有名なこの巨大な虫は普段は穏やかであり独自の言語とシグナルを持つ。通常の人種が彼らと意思を通わせることはほぼできないが、それは意思疎通の能力がないことを意味しない。個体の別を持たずに群れ全体で一つの意識を共有する、ライラット星系では極めて珍しい「共同意識」型の知的生物であることが後述する経路で判明している。文明交流の水準はサーモノイドと同等かそれ以上とする意見もあり人種に含めるべきかどうかは現在も論争の的である。彼らは自分たちの共同体を「オー・ムー」と名乗る。碑文学が双子の太陽の真名とする記号の読みと同じ音である。個体を持たず文字も持たない存在がなぜその名を知り、なぜ自らの名として語るのか。この奇妙な一致に答えを出した者はいない。
IGA掃討戦の記録には守護者に襲われて森の縁から退いた部隊が双方に存在する。IGAも共和国も森には手を出さず火線は森と森の間の火山性の裸地に限られたが、これは自制ではなく学習の結果である。籠城の初期にIGAは要塞の周囲を広げるため森の焼却を試みており、バーナーで焼かれた管の網は数日のうちに倍の速さで再生し守護者である巨大な虫の群れが基地へ押し寄せた。最初の要塞はこの反撃で破壊され、IGAは森から離れた高台へ要塞を築き直している(歴史の項を参照)。以後この星の両軍のあいだには森を焼かないという文書にならない了解が成立していた。結局のところ、この星で最も安全な場所は両軍が近づこうとしなかったピンクの森の奥だったということになる。
HISTORY ─ 歴史
IGAが現れるまで、この星に恒久的な施設は圏内勢力の小さな観測所しかなかった。火山と粘菌類の森と呼吸できない大気のほかに何もない星であり、隣のセティボスⅢが入植者を呑み込み続けたのとは別の意味で誰も住もうとしなかったのである。
IGAがこの星を本拠に選んだ理由は三つある。セティボス圏のエンバーガスの供給元を奪取する足掛かりであること。ワープドライブがセティボスの重力に阻まれて共和国の艦隊が直接到達できないこと。そして通常兵器が使用できないという環境そのものである。この条件を併せ持つ星は籠城の場所として恰好であり軍事要塞都市シコラクスはこうして築かれたのである。もっとも最初の要塞は長く保たなかった。前述の通り周囲の森を焼き払おうとしたIGAは再生した森と守護者の反撃を受け、築いたばかりの基地を丸ごと失ったのである。IGAは森から可能な限り離れた高台へ要塞を築き直し、結果として二代目のシコラクスは初代よりはるかに堅固な要塞になった。だが一度城を失った代償は資金に及び、外壁の堅さとは裏腹に要塞内部の造りは非常に粗末なものになったと伝わる。共和国はマクベスとエラダードを経由する中継航路を組んで十数年に及ぶゲリラ戦に臨むことになる。軌道上の岩石環は伏兵の巣となり低重力と浮力は既存戦闘機の性能を殺し続けた。
終局は宇宙歴3975年の白兵戦である。突入した共和国軍は精鋭部隊ソードを含めても35人に過ぎず、対する連合の守備兵力は500人であった。守備隊はIGAが秘密裏に開発していた超兵器を起動して共和国側を窮地に追い込んだが、新人部隊長の咄嗟の采配による制御系ハッキングでこれは無力化された。総統は基地の自爆装置を起動し味方の全てを見捨てて逃走し、要塞は跡地と残骸だけを残して消滅した。この一戦の詳細は白兵戦の記録と要塞跡地の項に記されている。
要塞の消滅後この星はしばらくのあいだ統治者は現れなかった。特殊な環境が通常の艦船の接近を妨げ、呼吸できない大気が誰をも寄せ付けなかったためである。戦役の完了から3年の後、終始無言と不干渉を貫いてきたガロウ連邦が突如この衛星の管理を自ら申し出て接収した。連邦がこの星を「ロザリア」と呼び戦役中もIGAと取引を続けていたことは後年フィチナの亡命者の証言で明らかになっている。
SETTLEMENTS ─ 三つの街
この星の街は独立星系連合が占拠していた時代に築かれた三つだけであり、それ以外の地表は手つかずのまま残されている。軍事要塞を兼ねた本拠「シコラクス」、補給基地と居住区を担う街「キャリバン」、無人哨戒機の管制塔と外部へ開いた唯一の港を持つ「デステモナ」である。連合の兵站はキャリバンで支えられ、軌道の岩石環に潜む伏兵と哨戒機はデステモナの管制塔から指揮された。共和国軍がこの星へ降りる際に最初に奪ったのもデステモナの港である。
シコラクスは消滅して跡地となり、キャリバンとデステモナは接収後のガロウ連邦が管理している。接収後の星は長らく無人と思われていたが、封鎖線の先では二つの街が明かりを灯し明確な統治が行われていることが確認された。住人はおよそ6,000人前後とみられる。近年の遠距離観測ではシコラクスの跡地から掘り出した連合の遺物を改修するための研究都市とみられる四つ目の集落の建設が確認されている。連邦が連合の遺産を集めているとするCDFの見方を裏付ける、現時点で最も具体的な証拠である。
MILITARY ─ 軍事
現在この星を実効統治しているのはガロウ連邦である。連邦は要塞跡を無人のまま封鎖しており、第2衛星セティボスⅢと第5衛星セティボスⅥとあわせて三つの衛星が外界へ閉ざされている。シコラクスの瓦礫には連合の兵器情報が眠っており、それを回収することが連邦の狙いであるとCDFは推測している。連合は超兵器や核弾頭ミサイルなど既知で最も危険度の高い兵器を扱う準備を進めていた。二つの跡地を押さえた連邦が連合の遺産を集めつつあるという見方は三大勢力に共有されており、この星を巡る監視と情報連携は帝国・通商連合・共和国の間で今も続いている。
IGAがこの星で籠城を続けられた理由も兵装にある。要塞の守備隊が用いたエンバーガスを燃料とする火炎放射器「エンバー・バーナー」、瞬間的な物理爆砕を主力とする罠「エンバー・グレネード」は、いずれもレーザーが光火薬が死ぬこの星の環境へ合わせて選び抜かれた武器であった。IGAが自力でこの体系を組み上げたとは考えにくく、レーザーをほとんど用いずエーテル系とパウダー系の兵装を好み、物理爆砕型のドローンを主力とするガロウ連邦の兵装はこの星でそのまま機能する星系で唯一の武装だからである。
ペパー将軍はこの点についてCDFの観測情報に自身の従軍経験を重ねた推測を残している。連邦は特殊条件下での兵器運用のノウハウと武器そのものを連合へ供与することで恩を売り、連合との協力関係を続けて勢力の拡大を図ろうとしていたのではないか。連合は籠城の術を得て連邦は外界への足場を得るという、双方に利益のある協定が結ばれていた可能性である。若い頃にこの星で戦闘員として直接戦った長官には守備隊の武装が連合の技術水準から浮いていたことが分かっていた。この推測は当時一軍人であったグリムクロウ提督がシコラクスへ出入りしていた事実と符合しており、連邦とIGAの関係が判明して以降CDF内部で急速に支持を集めている。
なお、IGAが壊滅しガロウ連邦に統治権が引き渡された現在でも低重力・高浮力という特性は現在も変わらず、通常の戦闘機はまともに飛行できない。IGA掃討戦で培われた特殊調整機のノウハウは後の可変出力機関開発の礎になったと言われているが、この星へ再び降りる作戦は現在どの勢力も立案していない。
THE WITCH ─ ワープ魔女
この星にはフォルトナのワープ魔人の仲間がいる。魔人と同じ岩石質の巨人であるが、こちらは女性のような姿をしており火山性ガスを水たばこのように吸っては煙を吹きかけてくる近づきがたい存在である。フォルトナの魔人のような愛嬌はなく性格は非常に高圧的で嫌味である。魔人とは仲が悪いようで、自身を「ワープ魔女」と呼ぶように訂正してくる。存在は長らく認知されておらず、交渉もできないため基本的に誰も頼りにしない。
存在が知られたのはフォックス・マクラウドのフォルトナ調査の際に魔人が彼女の存在を示唆したことによる。CDFはこの情報をもとに別途の調査を行い、火山地帯のカルデラの中で煙を吐く巨人の姿を遠距離観測で確認した。彼女は前述の守護者「オー・ムー」と普通に会話することができ、守護者が共同意識を持つ知的生物であることが判明したのもこの調査の成果である。守護者たちと言葉を交わすためには現状ワープ魔女の力が必須であり、それは同時にこの星の森が誰の手にも負えないことを意味している。
問題はガロウ連邦である。近年の衛星写真にはキャリバンの外縁で森の及ばない不毛の地を開拓する連邦の作業班と、それに並んで地面を掘り返す守護者の群れが写っている。封鎖の内側で連邦と「オー・ムー」は敵対どころか友好関係を結んでいるのである。共和国がサウリアン同盟と手を結んだのと同じ形で、連邦もまた守護者との利害の一致による同盟関係にあるとCDFはみている。汚染を糧とする森にとって不毛の地の開拓は縄張りの拡張であり、連邦にとっては森を焼かずに居住地を広げる唯一の方法である。そして、ここで問われるのが疎通の手段である。守護者と言葉を交わせるのはワープ魔女だけであり、CDFは連邦が彼女を何らかの方法で味方側に引き入れた可能性を疑っている。方法について問われたフォルトナの魔人の答えが調査記録に残っている。「俺様が美人に弱いのと同じで、アイツも美少年に弱いんだろうよ…たぶんな」
ARCHIVES ─ 記録余話
要塞跡には慰霊碑が一基だけ立っている。刻まれているのは連合側でも共和国側でもなく双方の戦没者の数だけであり、建てた者の名は記録されていない。連邦が封鎖した現在も慰霊碑だけは撤去されておらず、遠距離観測ではその周囲の裸地だけが菌類の森に呑まれずに残っていることが確認されている。直接の原因は分かっていない。シコラクスの自爆の余波で土壌が変質したとする説と、森もまたここで死んでいった者たちを弔っているのだとする説が挙がるが何れも確かめる手立てはない。
シコラクスの白兵戦にはもう一つ説明のつかない記録がある。シコラクス要塞での決戦時、ペパーに顔面へバーナーを浴びせられたIGA総統は酸素供給装置とマスクを破壊されており、キセノンを含む大気の中では数呼吸で昏倒するはずであった。ところが総統は自爆装置を起動し民間人に紛れて逃走するまで平然と行動している。CDFは総統の擬態能力を生む細胞変異が呼吸器にまで及んでいたとみている。深海へ潜る生物の筋肉のように細胞そのものへ酸素を蓄え、気体の交換を断ったまま長時間活動できる体であったという説である。当人が故人である以上真偽を確かめる相手はもういないのであるが…。
「ロザリア」の名の由来は伝わっていない。セティボス圏の大型衛星に付いた現地名の一覧はセティボスの項にある。戦役の完了後にシコラクスの後片付けにあたったCDFの作戦班はこの星を現地名でも序数でも呼ばず、ただ「ピンクの星」と呼んだ。班員の多くが今もピンク色の食べ物を口にしないという話は、この星の森がどれほど彼らの記憶に焼き付いたかを物語っている。